『謝るなら、いつでもおいで』(川名壮志/集英社)
長崎県佐世保市で起きた高1女子生徒殺害事件に大きな波紋が広がっている。加害者の女子はその動機を「人を殺してみたかった」「解体してみたかった」と語り、反省の言葉は一切ないという。そのため精神鑑定が検討されているとも報道されている。
今回の事件で思い出されるのが、今から10年前に同じ佐世保で起こった小6女子による同級生殺害事件だろう。今回、佐世保市が「命の教育」に熱心に取り組んできたことが頻繁に報道されているが、そのきっかけとなった事件だ。
2004年6月1日、佐世保市の市立小学校に通う小学6年生の少女が白昼、学習ルームで首をカッターで切られた惨殺死体で発見された。驚くべきは加害者が同じ小学校に通う11歳の女子児童だったことだ。被害者と加害者の女子児童はお互いの家を行き来するなど仲良しだったが、犯行の数カ月前から交換日記やチャットでのやり取りの中でトラブルとなった末の犯行だった。
実は今年の春、その10年前の事件を追った『謝るなら、いつでもおいで』(川名壮志/集英社)という本が出版されたばかりだった。同書の著者は被害者女児の父親である大手新聞社記者の後輩にあたり、また被害女児とも顔見知りで、当時は記者としてこの事件を苦悩の中で取材し、記事にしていった一人でもある。
著者は当時のマスコミ報道を検証しつつ、苦悩する被害者遺族、そして加害者家族にもインタビューを行うことで、未成年少女による残虐な犯行の裏側にあるものを浮かび上がらせようとする。
佐世保署に“補導”された小6少女は少年鑑別所、そして家庭裁判所に送致された。会見を開いた児童相談所によると少女は“普通の子”だった。
「面談の印象でいうと、ごく普通の女の子。我々と会話もでき、ごく普通の家庭に育っている」「事件当日は緊張と不安が残っていました。両手で顔を覆ったり、泣きながら話したり」
だがまた加害者側の付添人弁護士による会見では、児童相談所関係者が語った少女像とは少し違ったものだった。
「聞かれたことに始終とつとつと答えてくれるという感じでした。泣き出すとか、取り乱すとか、そういう状況にはありませんでした」
「事件の核心的なこと、どういう形で犯行に及んだのかという具体的な話に関しては難しい顔になって、考え込むような仕草をして、沈黙が10秒近く続くといった感じでした」
一方、少女は被害者遺族に手紙を書くよう言われたが、その文面には謝罪の言葉は一切なく、しかし「(被害者少女に)会って謝りたい」「(今後は)普通に暮らせればいいんだけど…」と語るなど、周囲の大人たちを困惑させた。
11歳の少女による同級生殺害。関係者の大人たちに少女の心は理解不能だった。そのため少年事件では“異例”といわれる精神鑑定が行われたのだ。