確かに過去、フリーメーソンに多くの政治家が参加していたのは事実だ。日本関連で最も有名なのは、鳩山一郎・元首相とGHQ司令官ダグラス・マッカーサーだろう。だが、フリーメーソンとはそもそも名士会のようなもの。各ロッジ(支部)も系統が複雑に分かれており、上意下達の計画を一致して行える蟻のような組織ではない。「フリーメーソンが世界を動かしている」という考え方は逆さまで、世界を動かす政治家が会員になることが(昔は)チラホラあった、という事に過ぎないのだ。
オウム事件は、日本におけるオカルト・陰謀論のあり方にショックを与えた。ノンフィクション作家・岩上安身は、麻原彰晃とフリーメーソン陰謀説との関係について「『バカらしい』とただ排除するだけでは、もはやすまないはずだ。事実をきちんと検証し、妄想や誇張されたデマからはっきり峻別すべき」として、サリン事件の数ヶ月後、フリーメーソン日本ロッジ広報担当・片桐三郎へのインタビューを行っている(『ベールを脱いだ日本のフリーメーソンたち』雑誌「宝島30」95年9月号掲載)。
その中で片桐氏は「僕個人は、伝統は守りつつも不必要に世間の誤解を受けるような秘密主義は変えていった方がいいと思っています」と発言。フリーメーソンの秘密主義を客観視しつつ、世間にはびこる陰謀論とのズレを印象づけた。この後、フリーメーソン陰謀説はほとんど誰にも相手にされなくなり、一気に下火となってしまった。
ところが2000年代中頃になり、冒頭であげた関暁夫が、終わったはずの陰謀説を驚くほど無邪気に復活させたのだ。しかも、関本人はネタではなく、最近のイルミナティ陰謀説とも絡めつつ、大真面目にフリーメーソンを糾弾している節がある。
今のところの最新刊『Mr.都市伝説 関暁夫の都市伝説4』(12年・竹書房)では、スタバ本社ビル、三菱のロゴ、真上から見た東京スカイツリーにまで「ピラミッドと目」を見出し、フリーメーソン=イルミナティによる世界支配に対する危機感を煽っている。そのコジツケぶりは、苦笑を通り越して病的にすら思えてくるのだが……。全体の3分の1を占めるイラストやオマケ絵本(どちらも関本人の筆)のサイケっぷりも、ちょっと不安定な精神状態を心配させるほどだ。あらゆるものにサインを見出し、世界を敵味方に単純化する陰謀論の、歪んだ不安を象徴しているようにも思えてくる。
また、先日のテレビ番組『やりすぎ都市伝説スペシャル』では、「秘密結社イルミナティ発祥の地」ドイツに出かけ、フリーメーソンとイルミナティの関係を追及。しかしまずイルミナティの説明段階から「ナポレオンが起こしたフランス革命に影響を与えている」という腰くだけなナレーションが流れる始末。陰謀がどうのという以前に「ナポレオンがフランス革命を起こした」と中学レベルの歴史すら間違えているのはさすがにマズいだろう……。
そもそもイルミナティとは、1777年からたった9年間だけ存在した組織で、もちろん現存はしていない。70年代のニューエイジ系ポップ・カルチャー小説「イルミナティ3部作」(『ピラミッドからのぞく目』『黄金の林檎』『リヴァイアサン襲来』すべて集英社文庫)がカルト的人気を博した影響から、その後の陰謀論でとりあげられるようになっただけだ(著者のロバート・A・ウィルスンは神秘主義者とはいえ、単純なビリーバーでもない。関などの陰謀論者は、彼の著作を一冊でも読んでいるのだろうか)。