待機期間10日間を拒否したのは、たんにホテルを確保できていなかったからだった
実際、政府はいまごろになって、もちろん改憲もしないまま、待機期間を10日間に延長する方針を固めた。これで「憲法の制約」で6日以上の隔離はできないという主張が大嘘だったことが、あらためてはっきりしたと言っていい。
それにしても、田村厚労相は一体なんのためにあんなデタラメ答弁をおこなったのか。
じつは、このときの質疑で田村厚労相は「6日間はですね、ホテルの量があるんです。このホテルを確保するのも、地域住民の方々のご理解をいただかないと」などとも答弁。隔離期間を延ばせないのはたんにホテルを確保できないからだということを自ら明かしていたが、ようするにホテルを確保できないという政府の無能さを覆い隠すために、憲法を持ち出してカモフラージュしていたのである。
まったく下劣としか言いようがないが、しかし、田村厚労相はその後もこんなことを口にしていた。
「いずれにしましても、これもですね、わが国は私権の制限に対しての法律がございません。先般、特措法もですね、措置入院に対して罰則等々はじめお願いしました。これはそういうわけにはいきませんでした。国会のほうの、いろんな判断のもとで。同じようにホテルには強制的に入っていただけないんです」
まるで決め台詞のごとく飛び出した「私権制限ができないからできない」。だが、この発言も支離滅裂すぎる。
まず、宿泊施設での隔離期間を延ばすべきという話をしているのに、「ホテルには強制的に入っていただけない」などと言うのは話のすり替えにほかならないが、さらに特措法改正における政府が当初示した措置入院の罰則規定(入院勧告に従わない患者に対して懲役刑など刑事罰を課す)を持ち出すことが意味不明だ。この政府案は病床が不足して入院すべき患者が入院できないという状況下にあることを一切無視したもので、しかも入院拒否の件数を政府が把握していないという罰則導入の立法の根拠となる前提事実さえおぼつかない代物だった。いや、そもそも入院によって収入がなくなり生活できなくなる、育児や介護ができなくなるといった就労・生活上の事情に対する補償・支援策もなく、一方的に患者に懲役刑を課すことは政府の責任を放棄して患者に責任を転嫁するものであり、差別を助長しかねないものだった。だからこそ、世論調査でも懲役刑を盛り込むことには反対が賛成を上回るなど反対の声が高まり、与党は刑事罰の撤回を余儀なくされたのだ。
それを、言うに事欠いて“入院拒否の刑事罰も国会で蹴られた”などと言い出すとは。繰り返すが、このとき俎上に載せられていたのは「隔離期間が6日では短い、10日にすべき」という話であって、個人に対して刑事罰を課してどうにかなる問題ではまったくなく、政府がホテルを確保すれば解消される話だったのだ。
このように、待機期間を6日間から10日間に延長すべきという提案に対し、菅政権は「憲法の制約」や「私権制限の法律がない」などともっともらしく声高に叫んで拒絶していたというのに、この質疑から約2週間も経って、素知らぬ顔で10日間への延長実施に方針転換したというのである。後手後手なのは言うまでもなく、あまりにも面の皮が厚すぎるだろう。