沢尻逮捕への疑義は「ムサシ」や「田布施システム」と同レベルのトンデモ陰謀論なのか
とはいえ、こういった安倍応援団やネトウヨだけがずさんな「陰謀論」攻撃をしているなら、まともに取りあげる必要もない。問題なのは、今回は安倍応援団だけでなく、良識的と言われるようなジャーナリストやメディアの専門家、意識高い系のツイッタラーらまでが一斉にこの沢尻逮捕のタイミングを疑う声のことを取り上げ、「陰謀論だ」と完全否定していることだ。
その結果、空気を読むことに長けた芸人コメンテーターたちの中にはこの「桜を見る会から話題をそらすため」というのを、いじりのフレーズに使う者まで続出している。
例えば、立川志らくはMCを務める『グッとラック!』(TBS)で、丸山穂高衆院議員の「饗宴の儀」問題を取りあげた際、「この丸山穂高さんの疑惑もきっと『桜を見る会』の話題をそらすための政府からの指示かも」と嘲笑交じりにコメント。カズレーザーは相方の安藤なつの結婚発表に、「首相の桜を見る会から注意を反らすための陰謀ニュースとみて間違いないでしょう」とツイートしていたし、太田光も、24日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS)で、壇蜜結婚の話題のとき「これは絶対桜を見る会から目をそらすための…」などとギャグにしていた。
今や、「沢尻逮捕と桜を見る会を関連づける」ことはトンデモの象徴になり、それをからかい、上から目線で批判することこそが「頭の良さ」「情報リテラシー」の証明になっている。
しかし、本当にそうなのか。むしろ、沢尻逮捕のタイミングを疑うことを「証拠がない」「政権がそんなことするなんてありえない」としたり顔で決めつける姿勢のほうがはるかに乱暴で危険な思考停止であり、現実を見ていない“お花畑脳”なのではないか。
彼らの危険性がよく現れていたのが「毎日新聞」「Buzzfeed」元記者の石戸諭氏の論考だ。石戸氏は今回、Yahoo個人や「HUFFPOST」でこの問題を「安直なストーリー」と決めつけ、〈「芸能人の逮捕と政権の不祥事」がつながっていると言うならば、確たる証拠が求められる。証拠がないままの主張は陰謀論と言わざるを得ない。〉〈大事なのは、批判や疑いが確かな根拠に基づいているかだ〉と批判した。
「証拠がないままの主張は陰謀論」って、この人は本当に元新聞記者なのか。そんなことを言い出したら、そもそも捜査権を持っていないジャーナリズムは何も踏み込んだことは書けないし、権力の不正なんて暴くことなどできないだろう。それこそ官公庁の発表だけを垂れ流す発表ジャーナリズムに堕してしまう(実際に新聞やテレビはそうなってしまっているが)。
石戸氏はファクトと陰謀論にはっきりとした境目があって明確に腑分けできると考えているようだが、情報はそんな単純なものではない。
実際は両者の間にはグレーゾーンがあり、そのグレーゾーンに踏み込んで検証し、国民に知らせるのもメディアやジャーナリズムの重要な役割だ。その際、決定的な証拠をつかめなくても、疑惑段階で世に問い、新たな情報を募ったり、告発を喚起することは十分ありうる。実際、週刊誌などはそうやっていくつものスクープをものにしてきた。
沢尻逮捕のタイミングを疑う今回のラサールらの意見は、このグレーゾーンに少し踏み込んだだけの話であり、「ムサシの選挙システムで票を操作している」とか「田布施システムが日本を支配している」というような本物の陰謀論とはまったく違う。
ラサールらを批判する連中はこの陰謀論とグレーゾーンの差異がまったくわかっていないのだ。
「桜を見る会」がらみで出回った情報で言えば、「桜を見る会から話題をそらすために嵐の二宮和也に結婚発表をさせた」というのは明らかな陰謀論だが、「桜を見る会からそらすために沢尻逮捕をぶつけたのではないか」と疑問を提示することは、陰謀論ではなくグレーゾーンだ。それは、同じ権力内部で起きている動きであり、今の政治状況から見てありえない話ではないからだ。