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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第33号

ブームの退職代行サービスだけでは対応できないブラック企業の恫喝手口! 嫌がらせ損害賠償、残業代支払い拒否…

「退職したら損害賠償請求する」と会社が脅してきたら…

 ところで、本件では主張されなかったが、退職時の有給休暇の取得に対し、会社側が時季変更権を主張して妨害する可能性がある。時季変更権とは、事業の正常な運営を妨げる場合において、使用者が従業員の有給取得の時季を変更できる権利である(労働基準法39条4項)。だが、退職する予定の者に対しては、この変更権は使えないとされている(昭和49年1月11日基収5554号の2)。なぜなら、退職する予定の者に対しては、時季を変更して他の日に休暇を与えることが不可能だからである。したがって、会社が時季変更権を主張しても無視してよい。

 また、退職したら損害賠償を請求すると脅すケースもよくある。わざと会社に損害を与えたような例外的な場合を除き、退職することで損害賠償責任が発生することは無いと考えてよい。労働者には職業選択の自由が憲法上保障されており(憲法22条1項)、無期契約の場合は原則として解約の申し入れから2週間を経過すれば雇用契約は終了する(民法627条1項)。このように労働者側に退職の自由を認める法制度になっている以上、経営者は労働者が辞めても事業が回るような人員を確保しておかなければならない。労働者が辞めて会社に損害が出るとすれば、それは経営者が悪いのであり、何ら労働者に法的責任は発生しない。

 なお、このほかにも、離職手続に協力しない、嫌がらせのために懲戒解雇にする、など、退職時に法的トラブルが発生することはよくある。

 昨今、弁護士でない者による退職代行が流行っているが、退職代行業者ではこのようなトラブルが発生しても対応できない。彼らはただ単に退職の意思を伝えることしかできないからである。

もし退職代行業者が、退職の意思を伝えることを超えて本人の代わりに会社と何か交渉してしまった場合、弁護士法72条違反となる。その罰則は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金である(同法77条3号)。我々から見ると、かなりすれすれのビジネスをしているように見える。

 退職したいけど簡単にやめられそうにない場合、まずは弁護士に相談してみるのがベストである。紛争が発生しても対応できるし、残業代を取れる可能性もあるからである。前述の労働ホットラインの他、当ブラック企業被害対策弁護団でも下記のページで退職に関する相談を受け付けている。気軽に利用していただきたい。
http://black-taisaku-bengodan.jp/taisyoku/

【関係条文】
労働基準法37条(残業代)
労働基準法39条1項、2項、4項(有給休暇、時季変更権)
憲法22条1項(職業選択の自由)
民法627条1項(雇用契約の解約)
弁護士法72条(非弁行為)
弁護士法77条3号(非弁行為に対する罰則)

(弁護士 明石順平/弁護士法人鳳法律事務所http://www.ootori-law.com


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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.06.18 10:06

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