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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第29号

冤罪に巻き込まれた会社員を襲った悲劇! 釈放され不起訴になったのに、会社は推定無罪を無視して解雇

推定無罪原則を無視した会社側の対応だったが、労働審判では…

 本件でさらに木村さんを憤らせたのは、交渉における城西園の対応である。

 城西園にも代理人弁護士が就き、本件の解決について協議が行われた。城西園の代理人からは解決金について話し合いたいとの提案がなされたため、私は城西園の代理人も解雇は無効だと思っているのだと受け止めた。

 しかし、城西園側から提案された解決金は、たったの20万円であった。木村さんの1カ月分の給与にも満たない金額である。勝手に犯罪者だと決めつけて解雇しておいて、なんと不誠実な使用者なのだろうか……。また、代理人の見識も疑われるところであった。

 早期解決を望んでいた木村さんと相談の上、労働審判を申し立てることとした。労働審判の中では、城西園側もさすがに「逮捕勾留されたから解雇した」などという主張はしなかったが、「他の乗客とトラブルになった」といった程度の解雇理由を挙げてきた。

 そんなことで解雇されたらたまらない。当然、労働審判委員会の心証は解雇無効とのことであった。それでも城西園は解決金を値切ってきたが、一応木村さんも納得出来る水準の解決金での退職和解となった。

「逮捕されたのだから犯人だろう」「起訴されたのだから有罪だろう」。特に日本で生活していると、その感覚は強いかもしれない。

 しかし、実際には数多くの冤罪事件が存在し、冤罪被害者は謂われのない疑いをかけられて苦しんでいる。

 刑事手続の中では関与する専門家が気をつければよいかもしれないが、それ以外の場面においても、本件のように推定無罪原則を理解しない対応によって人の人生を大きく左右してしまうこともある。

 くれぐれも、使用者の皆さんには軽率な対応は慎んでもらいたい。そして、法曹モノのドラマでは、これまで以上に推定無罪原則を丁寧に描いてもらいたい。

 なお、木村さんは別の社会福祉法人で元気に働いている。

【関連条文】
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

(弁護士 市橋耕太/東京合同法律事務所 https://www.tokyo-godo.com

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

最終更新:2019.03.25 10:59

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