カルロス・ゴーン著 『ルネッサンス ― 再生への挑戦』(ダイヤモンド社)
10日、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が再逮捕されたが、結局、逮捕容疑は1回目と同じ、「有価証券報告書の虚偽記載」だった。
1回目の逮捕の際、専門家の間では「虚偽記載は形式犯にすぎず、有罪に問えるかどうか微妙。少なくともわざわざ逮捕するような容疑ではない。特捜部は虚偽記載を入り口に特別背任罪でゴーンを再逮捕するつもりなのだろう」という見方が流れていた。マスコミも検察や日産のリークに乗っかって、海外の不動産を私的に使用していたことなどを、特別背任につながる問題であるかのように大きく報道していた。
しかし、本サイトが早い時点で指摘していたように、これらの疑惑はとても「特別背任」で立件できるような話ではなかったのだ。
「報道されていた不動産の私的使用問題は、購入した不動産が会社名義になっているため、会社への損害を立証しなければならない特別背任は難しい。特捜部もそのことはわかっていたはずです。だから、この間、マスコミに立件できない疑惑を次々流してゴーン=悪者のイメージを流布させる一方で、日産の全面協力をえて、特別背任につながるネタを必死で探していた。しかし、結局、立件できるようなネタは見つからなかった。でも、いまさら後戻りはできない。それで、同じ虚偽記載で再逮捕したということでしょう」(全国紙司法担当記者)
しかも、この再逮捕については、「不当逮捕ではないか」という批判もある。そもそも虚偽記載容疑での逮捕については、1回目の逮捕時から「実際に報酬をもらっているわけではなく、退任後に報酬をもらう合意をしたというもの、これで有罪に問えるのか」という指摘があった。ところが、今回の再逮捕は、その1回目の逮捕と全く同じ「退任後の報酬の合意」であり、対象とする期間を2011年〜2015年3月期から、2016年〜2018年3月期に変えただけだった。検察は、「有価証券報告書は1年1回提出されるものであり、年度毎に、ひとつの犯罪が成立する」と説明しているようだが、元検事の郷原信郎氏は「Yahoo! ニュース個人」でこう指摘している。
〈仮に犯罪に当たるとしても「包括一罪」であり、全体が実質的に「一つの犯罪」と評価されるべきものだ。それを、古い方の5年と直近の3年に「分割」して逮捕勾留を繰り返すというのは、同じ事実で重ねて逮捕・勾留することに他ならず、身柄拘束の手続に重大な問題が生じる。〉
また、今回の再逮捕によって、検察と日産の露骨な司法取引が完全に白日の下にさらされることになり、検察への強い批判の声が上がる可能性もある。
というのも、今回の逮捕対象となったうち、直近2年の「退任後の報酬の合意」には、西川広人社長兼CEOら幹部社員の署名があった。ところが、検察はゴーン前会長と法人としての日産だけを起訴する方針と言われているからだ。
「退任後の報酬の合意でゴーンを逮捕するなら、合意のもう一方の当事者である西川社長の刑事責任も問うというのが普通。検察がそれをしないのは、明らかに西川社長らと司法取引があったということ。しかし、この司法取引は本来の趣旨に反している。こんなものを認めたら、権力争いで対立する相手を陥れることが簡単に出来るようになるよ。もし西川社長が不問に付されたら、司法取引そのものについて批判の声が上がってくるはず」(検察OB)
実際、当初は検察リークに乗っかって、ゴーン叩きを行っていた新聞やテレビも、ここにきて、少しずつではあるが、捜査に疑問を呈する記事を掲載し始めた。
検察がこのまま、もしもっと大きな背任や脱税を立件できなければ、ゴーンサイドに反撃を受け、公判を維持できなくなるばかりか、日産ともども、激しい批判を浴びるのは必至だろう。
「とくに今回は、フランスとの関係もあるからね。特捜部長はもちろん、地検検事正のクビが飛ぶ事態にもなりかねない」(前出・検察OB)