またも祖父コン丸出しの安倍首相(首相官邸HP)
安倍首相にとって「悲願」たる改憲案提示と対露領土問題にかんし、あまりに露骨な行動に出た。19日に外務省が外交記録文書22冊を公開したが、メディアが大々的に報じたのは、こんなシロモノだったからだ。
「1960年、岸信介首相とアイゼンハワー米大統領との会談前資料に〈最近国内に歯舞、色丹プラスアルファをもって解決し、平和条約を締結すべきであるとの議論が一部にみられる〉と記述されていた」
「1957年、岸信介首相はアイゼンハワー大統領との会談を控え、憲法改正に向けて具体的な構想を抱いていた」
つまり、安倍首相が「北方領土の4島一括返還」を断念して新たに振りかざしはじめた「2島プラスアルファ」論も、憲法改正も、「もともと日本政府にあった考え」だというのである。
そもそも、1956年の「日ソ共同宣言」では平和条約締結後に北方4島のうち歯舞、色丹の2島引き渡しが明記されていたのだから、国内に2島先行返還論があったとしても不思議はない。また、強固な自主憲法制定論者だった岸信介が総理大臣就任で改憲の具体的な構想をもっていたのは当然の話だろう。
ようするに、「だから何?」という話でしかないのだが、これをメディアは「新事実」と言わんばかりに報道。NHKにいたっては、『NHKニュース7』でわざわざ幼少の安倍晋三を抱きかかえる岸信介の映像を流し「こちらは幼いころの安倍総理大臣、そしてこちらは岸信介元総理大臣です」と紹介してから、岸信介の改憲構想を伝えるという、まるで北朝鮮国営放送のような露骨さだった。
外交記録文書の公開によって、「2島プラスアルファ」「憲法改正」の正当性を国民にメディアを通して刷り込みたいという安倍政権の思惑がありありと伝わってくる。
とくに、安倍政権は北方領土解決を“政権浮揚”のための最大課題と位置づけており、今回の外交記録文書の公開は、2島返還を進めるための世論の地ならしが目的と考えて間違いないだろう。
対アメリカや対中国、対北朝鮮と失策ばかりの安倍首相にとって、外交でアピールできる手立てはもはやロシアとの領土問題しかない。こうしたなかで、安倍首相はこの「2島プラスアルファ」論を自身の「外交の手柄」にしようと必死なのだ。
しかし、言っておくが、「2島プラスアルファ」論というのは、手柄にできるようなものではない。仮に実現したとしても、おそらくまったく割に合わない膨大な経済支援を約束させられるのは必至だが、それ以前に、実態は「0島返還」という、世紀の大失敗外交になる公算が高い。
実際、11月の日露首脳会談後、安倍首相は「日ソ共同宣言が基礎」と強調し、歯舞、色丹の2島返還にプーチン大統領が前向きであるかのように印象付けようとしたが、対するプーチン大統領は11月の日露首脳会談の翌日には、さっそく2島について「宣言で、主権がどちらになるかは記されていない」と発言。主権を保持しつづける姿勢をすでに匂わせている。
そして、最大の障壁は、2島の米軍駐留の問題だ。プーチン大統領は2島を返還したあとに日米安保条約などに基づいて米軍基地が設置されることを警戒。〈これまでの会談で、北方領土を日本に引き渡した場合にアメリカ軍の基地を置かないことを安倍総理大臣とトランプ大統領の間で公式な文書で合意し、確約するよう求めている〉という(「テレ朝news」11月14日)。そして、日本政府も文書での合意に「米国は同意しない」とみている(毎日新聞12月3日付)。
安倍首相は「北方4島の非軍事化」といった口当たりのいい提案をしているが、安倍首相がトランプ大統領を相手に「基地を置くな」などと主張できるはずがあるまい。