首相官邸HP『『総理の一日』より
24日から召集される臨時国会を前に、昨日おこなわれた自衛隊の観閲式で、安倍首相が憲法改正をアピールする演説をぶった。
「すべての自衛隊員が、強い誇りをもって任務をまっとうできる環境を整える。これはいまを生きる政治家の責任であります。私はその責任をしっかり果たしていく決意です」
このスピーチが「憲法改正によって9条に自衛隊を明記する」ことを謳っているのは明々白々だが、政治的中立が大原則である自衛隊の観閲式で内閣総理大臣が憲法改正を主張するなどもってのほかの行為だ。
しかも、安倍首相はこのスピーチで「いまや国民の9割は、敬意をもって自衛隊を認めています」と強調。「60年を超える歩みのなかで、自衛隊の存在はかつては厳しい目で見られたときもありました。それでも歯を食いしばり、ただひたすらに、その職務をまっとうしてきた」「まさに諸君自身の手で信頼を勝ち得たのであります」などと語った。
まったくよく言うよ、だろう。ついこの前までは「自衛隊を合憲とする憲法学者はわずか2割」「そのせいで自衛隊員の子どもがいじめられている!」などと主張していたのに、これを石破茂氏に「いま国民で自衛隊を違憲と思っている人は読売新聞の調査だと1割もいない。自衛隊に対して好感をもっている国民は9割だ」と反論されると、今度は「残念ながら自衛隊はたしかに国民に信頼をされている。多くの人は(自衛隊を)憲法違反とは思っていない」(NHK『日曜討論』9月16日)などと言い出していたではないか。
自衛隊が国民から信頼されていることを「残念」と口にするような人物が「強い誇りをもって任務をまっとうできる環境を整える」なんて述べること自体が白々しく、本音は自衛隊をダシに使って自分の悲願である改憲にもち込もうという魂胆が見え見えだ。
だいたい、JNNが13・14日におこなった世論調査では、自民党が臨時国会で改憲案を提出するという考えに対し、「賛成」とする意見が33%だったのに対し、「反対」は52%と過半数を超えている。主権者たる国民の半数が改憲案の国会提出を求めていないにもかかわらず、議論を進めようとする道理はない。
だが、恐ろしかったのは、この安倍首相の演説の扱われ方のほうだ。
なんとNHKは、この観閲式における安倍首相のスピーチを、昨日の正午のニュースと『NHKニュース7』でトップニュースとして放送。無論、自衛隊のイベントで総理大臣が改憲をアピールすることの問題点などは一切指摘せず、そればかりか『ニュース7』では離島防衛の必要性を強調するようなVTRまで用意。まるで“日本を取り巻く周辺環境が切迫した状況で自衛隊の存在感が高まっている”と言わんばかりだったのだ。
安倍首相の主張を垂れ流すだけではなく、改憲による自衛隊明記に一理あるかのように誘導する構成で安倍首相をアシストする──。NHKの御用っぷりはいまにはじまった話ではないが、安倍首相が臨時国会で目指している自民党改憲案の提出が現実化したとき、こんなプロパガンダ報道がまかり通ることを思うとゾッとするではないか。
いや、NHKだけではない。もし、憲法改正が発議され、国民投票にもち込まれた場合、もっとも恐ろしいのは、民放のテレビ・ラジオ局が放送する「改憲賛成」を呼びかけるCMの問題だ。