家族会メンバーが「北朝鮮も南朝鮮も息を吹くように嘘をつく」のヘイトスピーチ
しかも、驚いたのは、今回、拉致被害者家族会からも安倍首相の強硬論線の支持、そして、異論を封殺するような発言があったことだ。
たとえば、「家族会」事務局長で横田めぐみさんの弟・横田拓也氏は「絶対忘れてはならないのは、彼ら(北朝鮮)が犯罪者、テロ支援国家であるということ」「拉致問題の解決の定義を決めるのは私たち家族です。北朝鮮ではなく、金正恩でもない。彼らの言うことを絶対にうのみにするわけにはいかない」と強調したうえで、こう語った。
「合同調査委員会を設けたりとか、連絡事務所の設置をしたりとか、調査リポートを求める、偽の証拠をもらう、そんなことは一切求めていないんです。日本国内にもそれを画策しているような連中がいます。こういう連中を私たちは完全に批判しなくてはいけないし、彼らに耳を傾けてもらいたいのは、私たちの救出活動にとって間違いなく妨害行為であるということです」
これは、明らかに、田中均・元外務審議官や石破茂氏らが提起した拉致問題解決案への批判だろう。
同じく被害者家族の増元照明氏はもっと直接的だった。増元氏は自民党総裁選に言及し、石破氏の平壌に連絡事務所を設置する案について「石破さんの発言は、拉致被害者は死んでいるという前提での連絡所設置です。生きていると信じていれば、櫻井さんがおっしゃったように『帰せ』という言葉を言えば済むだけです」と主張したのである。
別に石破氏の肩をもつつもりはないが、平壌に連絡事務所を設置する案がなぜ「拉致被害者は死んでいる前提」なのか、さっぱりわからない。増元氏は「帰せ」と言えば済むと言うが、それで一向に帰ってこないから、さまざまなアプローチを提案しているだけではないか。
しかし、この集会では、安倍首相が主導する路線以外は一切認められないらしい。増元氏が「死亡を前提とするような考え方を国民に広める国会議員やメディア関係者は私たちの敵じゃないですか!」と畳み掛けると、会場の熱気は最高潮に達する。参加者は口々に「日本の敵」「朝鮮総連に破防法を適用しろ」と叫び、なかには何の関係もない「辻元清美を前に出せー!」などという声までが飛び交う始末だった。
さらに、この家族会のスピーチでは、もうひとつ愕然としたことがあった。家族会事務局次長で、めぐみさんのもうひとりの弟である横田哲也氏の発言だ。哲也氏は、南北首脳会談で関係改善が進む韓国と北朝鮮の関係を念頭にこう述べたのである。
「南北融和と言いましても、狐と狸の化かし合いで一寸先は闇です。歴史をひもとけば、北朝鮮も南朝鮮も息を吹くように平気で嘘をつき、裏切り行為をする国ですから、その軌道修正していくのはわれわれ日本国しかありません」
「彼らが口にする平和だとか非核化だとかは嘘だと、偽善だということが実態であって、だまされてはならない」
民族や国家を持ち出し、一括りに「息を吹くように平気で嘘をつく」などと罵るのはヘイトスピーチの典型的な話法である。しかも「南朝鮮」との言い方で韓国に対してもヘイトを向けるのは、いったいどういうことなのか、首をかしげざるを得ない。