産経が「安倍が進言」と報じたセントーサ島が拉致問題解決の障害に
つまり、日本軍は、彼女たち朝鮮人女性に性的労働をさせることを告げず、まして嘘の説明で騙してシンガポールの慰安所に連れて行ったのだ。永瀬氏の証言はこう続いている。
「それを聞いて、ひどいことをするなと思った。いま考えてみても、強制的に連行して慰安婦にするよりも、そうやって騙して連れてきて慰安婦にするほうが、僕は罪は深いと思います。
とにかく、それから島の中に慰安所ができたんですが、隊長が慰安所の兵隊にくだしおかれる前に、慰安婦を毎晩代わりばんこに次から次へ味見しているという話を聞きました」
繰り返すが、金正恩委員長とトランプ大統領が首脳会談を行うセントーサ島は、戦中、日本軍が朝鮮人女性を騙して慰安婦にした場所だったのである。
安倍首相はかつて、自民党の若手勉強会で慰安婦の強制連行否定論をがなりたて、「韓国ではキーセンが日常」「元慰安婦=キーセンハウスで働く売春婦=強制性のない商業的行為(ビジネス)だから問題なし」という趣旨の発言をしていた。一方、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は日朝関係について、慰安婦問題などをあげながら「朝日関係は本質的に、被害者と加害者の関係であり、加害者が被害者に謝罪と賠償をしなければならないというのは、問題の初歩だ」と強調している。安倍首相の歴史認識の欠如は以前からだが、こんな初歩的なことも知らないでシンガポール開催を進言したというのだろうか。
前述の永瀬氏との対談者であり、東南アジアの近代史に詳しい高嶋琉球大名誉教授は、本サイトにこのように語る。
「朝鮮半島の人々にとってシンガポールは、捕虜に対する監視・労働強制などの役割を日本兵の下で押し付けられた朝鮮からの徴用による軍属の人々が戦後のBC級戦犯裁判で有罪判決を受け、チャンギ刑務所で処刑されたケースも少なくない因縁の場所です。しかも、シンガポール中に多数設置していた慰安所に大勢の朝鮮人女性が騙されて連れてこられていたという事実が再び思い起こされる。もし、安倍首相がトランプ大統領にシンガポールでの会談開催を薦めたり賛成したのであれば、改めて安倍首相とその側近たちの歴史に対する無知と無神経さを露呈させた“事件”になろうとしているように思えます」
高嶋名誉教授はまた、拉致問題を巡る交渉の上でも、セントーサ島での会談は大きなマイナスになる可能性があると指摘する。
「こうした歴史背景を無視したまま、安倍首相の要望通りにトランプ大統領が拉致問題を提起すれば、北朝鮮側から『この場でそのようなことを話題にするとは恥知らずにも程がある、と日本側に伝えるべきだ』などと返されることは十分に考えられます」
産経新聞や応援団の「安倍首相が米朝会談開催地を進言」報道がいつものごとくの安倍首相の嘘なのか、歴史に無知な結果なのはよくわからないが、いずれにしてもこのままいくと、米朝会談のあと、安倍首相と日本が国際感覚の欠如をさらすことになるのは目に見えているということだろう。
(梶田陽介)
■主な参考文献
「シンガポールの日本軍慰安所」(林博史)/「戦争責任研究」No.4(1994年夏季号/日本の戦争責任資料センター)所収
「華僑粛清(シンガポール、マレー戦線)」(高嶋伸欣)/『歴史問題ハンドブック』(東郷和彦、波多野澄雄・編/岩波書店)所収
『旅行ガイドにないアジアを歩く シンガポール』(高嶋伸欣、鈴木晶、高嶋道、渡辺洋介/梨の木舎)
最終更新:2018.06.11 12:24