社長にはいろんなタイプの人がいる。これはごく当たり前のことで、社長という部分を何に置き換えても構わない。ところが、ブラック企業の社長となると、この当たり前のことが通用しなくなる。
ブラック企業相手の紛争に取り組んでいて感じることだが、ブラック企業の社長(店長等の事業所の責任者である場合もある)は、実はそれほどいろんなタイプがいない。この連載の第4回でも紹介されたが、ブラック企業の社長のタイプは、生粋のブラックタイプ、万能ワンマンタイプ、無知タイプの3つしかいないと言っても過言ではない。
ブラック企業の事案に遭遇するたびに、どこかで聞いたことがあるような社長の言葉があり、どこかで見たことがあるような会社側の労働者への仕打ちがある。他の弁護士の担当事件でも、聞いたことがあるような話で、同じ会社?と思うことがよくあるほどである。
ブラック企業の世界では、法的には当たり前のことが通用しなくなる。あなたの会社では、当たり前のことがきちんと通用しているだろうか。
ブラック企業には関わらないのが一番。とはいえ、現実の世界はそう簡単ではない。ブラック企業と知って好き好んで入社するわけではなく、入社してみたらブラック企業だったというのが現実であり、一度入社すると様々な理由から辞めにくいというのもまた現実である。
現実は悩ましいものであるが、とはいえ、この連載を通して、「ブラック企業相手でも対策はある!」ということを、ぜひ知っておいてほしい。
まずは、無知タイプの事例を一つ。
Aさんは、掃除機メーカーの販売営業マン。大学の新卒で入社し、まだ1年目の若手だった。勤務先は支店長をトップとして上下関係に厳しく、Aさんは支店長代理から「お前は一番下っ端なんだから、先輩より遅く出社しているのはおかしいだろ」と指示されて、朝一番に出社するようにしていた。早朝の出社から夜11時頃まで外部営業や会社での作業をした後、帰宅後にも、資料や日報等の作成を行う日々だった。もちろん、残業代はないが、誰も文句は言わない。あれ? 労働者の労働時間って、雇用契約や労働基準法(32条等)で制限されているはずだが……。ただし、新卒のAさんは、「そんなものか」と思うだけで、それほど疑問には思っていなかった。