我々弁護士がブラック企業の社長と対峙する機会として、労働審判というものがある。
「裁判」という単語はよく聞かれるが、「労働審判」という単語は耳慣れないかもしれない。労働審判とは、個々の労働者と会社との間に生じた労働関係に関する紛争を、裁判所において、原則として3回以内の期日で、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度で、2006年4月より始まった。
一般的に、労働審判では、裁判官1名を含む3名の労働審判員、労働審判の申立人である労働者本人とその弁護士、労働審判の相手方である会社の関係者と会社の弁護士、これらの人物でひとつの大きな机を囲んで座る。
要するに何が言いたいかと言うと、それぞれの距離が近いのである。お互いに2、3メートルくらいしか離れていない。そのような状況で、ブラック企業の社長たちが暴走する姿を何度か見てきた。距離が近い分、それはそれは、なかなかの迫力であった。
今回は、労働審判で目の当たりにしたブラック企業の社長たちの中でも特に印象に残っている社長を紹介しよう。
その会社は、30代の女性労働者が会社に結婚の報告をしたところ、翌月に解雇してきた。女性労働者は現に妊娠していたわけではないが、その会社はそれまでにも結婚直後の女性労働者の解雇を繰り返していて、近いうちに妊娠・出産の可能性が高いことを考慮したものなのは明らかであり、マタニティ・ハラスメントすれすれの解雇といえた。
しかし、さすがに会社も、妊娠・出産の可能性があるという理由では解雇できないというのはわかっていたのか、女性労働者には解雇の理由をリストラとだけ説明してきた。