「この選挙は日本の決定的な岐路になる」「いまを逃せば後戻りできなくなる」
その一例に、中村は自身の体験を振り返っている。知人との会話のなかで憲法に話題が及んだ際、個別的自衛権と集団的自衛権の違いについてなどを語る中村に対し、その知人は〈面倒そうに説明を遮〉り、こう言ったのだという。「でもまあ色々あるんだろうけど、(憲法を変えないと戦争できないから)舐められるじゃん」。
〈「舐められるじゃん」。説明より、シンプルな感情が先に出てしまう空気。卵が先か鶏が先かじゃないけれど、これらの不穏な世相と今の政治はどこかリンクしているように思えてならない。時代の空気と政治は、往々にしてリンクしてしまうことがある。論が感情にかき消されていく〉
このような考え方は、選挙で自民党が勝利し安倍政権が存続となれば、さらに加速していくだろうことは想像に難くない。独裁状態をつくり出すには、危機を演出して敵愾心を煽ることが重要だ。そうしたなかでは恐怖や不安が優先され、冷静で慎重な議論は求められない。
そして中村は、こうした状況下での恐ろしい「近い将来」を予測する。
〈明治というより昭和の戦前・戦中の時代空気に対する懐古趣味もさらに現れてくるように思う。そもそも教育勅語を暗唱させていた幼稚園を、首相夫人は素晴らしい教育方針ともうすでに言っている〉
〈改憲のための様々な政治工作が溢れ、政府からの使者のようなコメンテーター達が今よりも乱立しテレビを席巻し、危機を煽る印象操作の中に私達の日常がおかれるように思えてならない。現状がさらに加速するのだとしたら、ネットの一部はより過激になり、さらにメディアは情けない者達から順番に委縮していき、多数の人々がそんな空気にうんざりし半径5メートルの幸福だけを見るようになって政治から距離を置けば、この国を動かすうねりは一部の熱狂的な者達に委ねられ、日本の社会の空気は未曽有の事態を迎える可能性がある〉
この中村の予測は、確実に現実のものになるだろう。なぜなら実際にわたしたちは、もうすでにそのレールの上に安倍首相によって立たされているからだ。だが、中村はただ悲観するのではなく、だからこそわたしたちに訴えかける。選挙に行かなくてはならない、と。
〈この選挙は、日本の決定的な岐路になる。歴史には後戻りの効かなくなるポイントがあると言われるが、恐らく、それは今だと僕は思っている〉
社会に蔓延る排外主義・全体主義の空気を嗅ぎわけ、的確な時評と極めて現実的な分析をおこなう中村のような作家の論考を、いまはまだ読むことができる。しかし、そうした自由さえも奪われかねない世界が、扉を開けて待っている。そうした世界を信任するのか、拒否するのか。それがこの選挙では問われている。
(編集部)
最終更新:2017.10.19 09:13