「共謀罪」はテロ対策ではなく、「戦争反対」などの声をつぶすための法律
特集はまず、実際に犯してもいない罪について罰せられる「共謀罪」はそもそも刑事法の基本原則を覆すものであると警鐘を鳴らす。九州大学の内田博文名誉教授は記事のなかでこのようにコメントしている。
「何が犯罪で、どういう刑罰を科すかあらかじめ法律で決めておき、社会に有害な結果が発生したことだけを犯罪とする刑法の基本原則に反しています。しかも、行為ではなく思想や信条、あるいは、どういう集団に属しているかで処罰が事実上、決まってしまう。人権侵害で、その意味では違憲と言っていい」
また、政権は「共謀罪」が必要な理由として、東京五輪などに向けた「テロ対策」としているが、ハイジャックなどのテロ対策は現行法で十分対応できるものであり、そのために「共謀罪」は必要ない。では、なぜ政権は強引に「共謀罪」を成立させようとしているのか? 前出の内田名誉教授は、「共謀罪」の真の目的を「戦争反対を含めた運動つぶし」と断じたうえで、このようにコメントしている。
「テロリストに対しては役に立たないんだけど、おかしいじゃないかと声を上げる人たちを押さえつけるには、非常に有効な法律になっている」
金田勝年法相自ら2月の衆院予算委員会での答弁で「団体の性格が変わったときには組織的犯罪集団になり得る」と言い、一般市民でも「共謀罪」の対象となることを示唆しているが、これこそが「共謀罪」という法律の核である。「テロ対策」など単なるお題目。政権にたてつく人間を押さえ込むのが目的なのだ。
「共謀罪」成立後に起こり得る出来事として、「自衛隊の海外派遣反対」、「脱原発」、「沖縄の米軍基地建設反対」といった、与党の政策とは逆の主張をする市民の行動に対し制限がかかる可能性については巷間言われているが、場合によってはもっと身近なケースにも「共謀罪」は適応される可能性がある。記事のなかで日弁連共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士は、このような例を指摘する。
「例えば、マンションの管理組合。隣に新たなマンションが建つとします。日照権を侵害するから建設反対のために資材搬入を阻止する座り込みをしようと話し合う。それが組織的威力妨害罪の共謀になる可能性があります。普通の団体でも活動内容も目的も変わったと警察に判断されれば、該当するおそれがある」
仮に「共謀罪」が成立したとして、どういった運用をされていくのかは未知数だ。なぜなら、この「共謀罪」は公権力による恣意的な運用がなされる危険性を多分にはらんでおり、それが「平成の治安維持法」と呼ばれる所以でもある。記事のなかで、日弁連共謀罪法案対策本部副本部長の海渡雄一弁護士はこのように指摘している。
「捜査当局のさじ加減ひとつ。どうにでも勝手に解釈できます。まず逮捕して、ガンガン取り調べをして自白させればいい。あるいは電話やメールを盗聴して証拠を押さえるとか」
このまま「共謀罪」が成立すれば、特高警察による理不尽な逮捕と苛烈な拷問の横行した治安維持法の時代が再びやって来る可能性は高いと言わざるを得ない。