しかし、毎日新聞6月23日付によれば「現在、効果が研究されているのは分子状の水素」であり、「医薬品の臨床試験のように、被験者に内容を知らせず、水素水と偽の水素水を飲ませて効果を比べる信頼性の高い無作為比較試験を行ったものは約10本と少なく、試験での症例数も少ない」。仮に水素自体になんらかの医療的効果があるとしても、健康商品として売り出されている「水素水」とはまた別の話なのだ。実際、現段階で、科学的な証拠を基になんらかの健康効果を表示できる特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として許可された水素水は存在しない。
さらに、水素水の効能を否定する公的な報告も出ている。厚労省所管の独立行政法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」は6月、水素水に関してこのように記載した。
〈俗に、「活性酸素を除去する」「がんを予防する」「ダイエット効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない。現時点における水素水のヒトにおける有効性や安全性の検討は、ほとんどが疾病を有する患者を対象に実施された予備的研究であり、それらの研究結果は、健康な人が市販の多様な水素水の製品を摂取した時の有効性を示す根拠になるとはいえない〉
そして、前出した国民生活センターのアンケートでも明らかになったように、水素水事業者ら自身がその効果について“後ろめたさ”を感じている。実際、「Wedge」6月号に寄稿された医師・ジャーナリストの村中璃子氏による取材記事では、業者側のこんな赤裸々な証言が掲載されている。
「水素水はあくまでも清涼飲料水。体に良いとは言っていません」(伊藤園広報担当)
「ええ、(水素水生成器で)できあがった水素水はアルカリイオン水と同じですよ」(パナソニックマーケティング担当者)
だが、太田教授と「文春」はこうした反論に対して“市販の水素水は濃度の低いインチキ商品なだけで、基準を満たせば効能はある”と主張してはばからなかった。とりわけ「文春」は8月11日・18日合併号でも「水素水論争に最終結論 測って判った『ホンモノ』」なる記事で、各種水素水や生成器の水素濃度を測定する誌上実験まで行っている。
しかし、繰り返すが、問題は水素自体の濃度がどうかということでなく、水素水をはじめとする各種商品(水素タブレット、水素風呂、水素ヘアトリートメント……etc.)が謳う美容健康効果がはたして本当なのか、という話だ。仮になんらかの効果があったとしても、「お肌がピチピチに」とか「毎日快便」とか「アトピーが治る」とか「朝立ちした!」とか、まるで“完全無欠の魔法の水”のような謳い文句は問題だろう。