というのも、日米地位協定の規定によって、墜落した米軍機の正確な情報を日本側が把握することは事実上、不可能だからだ。
地位協定は日米安保条約に基づき駐留する米軍の権利等を定めたもので、日本側は米軍の「財産」に関して許可なしに捜査や差し押さえが認められない。たとえば、2004年の沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事故では、民間敷地内にもかかわらず、墜落現場は米軍によりただちに封鎖。米軍は機体の破片を「財産」と主張し、日本の警察や消防も立ち入ることができなかった。
それだけではない。裁判権もまた制限されている。地位協定によれば、米軍による事件や事故が公務中に発生した場合、米側が優先的に自国の法に基づく裁判をしてもよいことになっており、日本の国内法で被疑者を裁判にかけることができるのは、米側が裁判権を放棄したときだけだ。つまり、もしオスプレイが市街地に墜落し、多数の死者を出す甚大な被害をもたらしたとしても、日本側はただちに捜査を開始し、被疑者等を起訴し、裁判にかけることすらできないということである。
加えて言えば、米軍機は日本の航空法の適用外である。米軍が勝手に飛行訓練のルートを設定し、どの空域で低空飛行を行おうとも、日本政府は事実上容認しているのが現状だ。本来、飛行訓練のルートは地位協定の第2条により両国政府の同意が必要なのだが、実際には基地間移動という名目で日本の全空域を好き勝手に飛び回ることができる。
したがって、今回のオスプレイ墜落事件も、現実には、日本側が正確な情報を把握することは極めて困難であり、そればかりか、地位協定の抜本的改定なしには再発防止は不可能。今後さらなる悲劇がいつ起こるかもわからないのだ。
ところが、日本政府は、国の主権すら放棄する地位協定の見直しに及び腰だ。事実、地位協定は岸信介内閣が新安保条約を締結した1960年から、これまで一度たりともも改定されていない。米軍人による女児暴行などの重大事件が発生し、大きな社会問題になったとき、米側の顔色を伺いつつ「運用改善」や補足協定でお茶を濁してきただけである。