しかも、今年4月には2015年度の運用損失が5兆円超に上ることが囁かれていたが、安倍政権は例年7月上旬に実施されていたGPIFの前年度の運用成績の公表を参院選後の7月29日まで遅らせるという姑息な手段で事実を隠蔽。それでも選挙前に不安になったのか、6月27日に安倍首相は公式Facebookで、こんな“デマ”を流している。
〈「株価下落により、年金積立金に5兆円の損失が発生しており、年金額が減る」といった、選挙目当てのデマが流されています。しかし、年金額が減るなどということは、ありえません。このことを明確に申し上げたいと思います〉
もちろん、5兆円の損失はデマではなく事実であり、実際、7月29日にGPIF は損失額を5.3兆円と公表した。そして、運用損による年金削減についても、当の本人が今年2月15日の衆院予算委で「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」と言及。損失損によっては年金額を減らすと安倍首相自らが答弁していたのだ。安倍首相の投稿こそれっきとしたデマゴギーだろう。
だが、さらに呆れかえったのは、今月6日の参院予算委でこの巨額損失問題を追及されたときの安倍首相の態度だ。なんと安倍首相は「平成16年度から25年度までの10年間について、現行のポートフォリオで運用したと仮定すれば、従前よりも1.1%高い収益率が得られる」と強弁。つまり“10年前からやっていたらうまくいっていた”などと言い出し、10.5兆円をパーにした責任を知らんぷり。挙げ句の果てに「不安を煽るような議論は慎むべき」とまで付け足したのだ。煽るも何も、年金積立金を10兆円も消しておいて、不安を覚えない国民はいないだろうという話である。
だいたい、安倍首相は「消えた年金」問題が発覚した第一次政権時、「最後のひとりにいたるまでチェックし、年金はすべてお支払いすると約束する」と言ったが、何の約束も果たさないまま退陣。さらに昨年には、安保法制のどさくさに紛れて「消えた年金」の発覚後に設置した国民からの申し立てを審査する総務省の第三者委員会を15年6月末に廃止してしまった。結局、持ち主がわからない年金記録は約2000万件も残っている(15年5月時点)。「最後のひとりまで」と言いながら、2000万件も未解決なのだ。
安倍首相はこの「消えた年金」問題について、2008年1月に開かれたマスコミとの懇談会で「年金ってある程度、自分で責任を持って自分で状況を把握しないといけない。何でも政府、政府でもないだろ」と語ったという。年金記録は政府の管理の問題であり国民は何も悪くないのに、ここでもやはり“自己責任”。──こんな人間に「年金は100年安心」などと言われて安心できるはずがないどころか、現状は改悪の道をただひたすらに走っているだけだ。
(水井多賀子)
最終更新:2017.03.02 01:23