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リオ五輪、W杯最終予選直前に考える、サッカーは右翼的ナショナリズムやレイシズムと無縁ではいられないのか

 こういった事情を鑑みると、では、本稿冒頭で引いた清氏の危惧の通り、〈サッカーファン〉は〈「ナショナリズム」に染まった右派的な人たちの集まり〉なのだろうか?

 一部のサポーターチームのなかには排外的な側面をもっている人たちもいるのは間違いなく、残念ながら確かにその側面はあるのかもしれない。しかし一方で、闘争心とナショナリズムがない交ぜになる最も「差別」が濃厚な場所だからこそ、サポーターやチームなど、サッカーに関わる人々は「差別」に関して一般の人以上に敏感な感性をもっているとも言える。

 前述の「JAPANESE ONLY」騒動の時、Jリーグは浦和レッズに対して、クラブチームにとっても突出して重い処分である、リーグ史上初の無観客試合のペナルティーを課した。また、横断幕を出した当該サポーターチームも無期限の入場禁止および活動停止となっている。しかも、その処分の決定は、数週間はかかる通常の意思決定のプロセスからすれば異例の、事件から5日後という速いスピードで行われた。また、レナトに対してバナナを差し出したサポーターも無期限入場禁止の処分が下されている。

 こういったレイシズムがはびこる状況に危機感を募らせたのは、チーム運営側だけではなく、サポーターも同様であると清氏は紹介する。各チームはサポーターも巻き込んで差別問題に関わる啓蒙活動を行っている。マリノスは法務省の人権擁護局が制作したテキストを使って差別問題に関するグループワークとディスカッションを行っており、また、浦和レッズも国連傘下のNGO団体と共同で差別撲滅のためのアクションプログラムを導入している。

 このような動きは、ヨーロッパのサッカーリーグの流れに呼応した結果生まれてきたものだ。1990年代以降、移民の急増により国家代表チームも多民族の構成に変化。また、ユーロ圏内では労働者が自由に移動できることからクラブチームではその傾向がより顕著。その最たる例として清氏は、名門クラブチームでありながら、イギリス人がひとりもピッチにいないこともあるアーセナルを挙げる(ちなみに、現在、イギリスのEU離脱によりプレミアリーグのこのような状況が激変するのではないかと危惧がもたれている)。

 なので、差別問題に関して、ヨーロッパのサッカーチームはかなり厳格な処罰を設けている。欧州サッカー連盟(UEFA)のミシェル・プラティニ会長は国連に招かれた際の基調講演で「人種差別との戦いは欧州サッカーの優先課題である」とすら語っていたと清氏は紹介している。とはいえ、残念ながら、それでも差別問題も消し去ることはできていないのであるが……。

 しかし、スポーツをはじめとした「文化」は、人種差別をなくすための突破口となり得る最大の武器である。たとえば過去には、60年代にアメリカで公民権運動が成功した要因のひとつとして、当時の若者たちを魅了していた黒人たちのソウルミュージックが人種の枠を超えた連帯を生んだからだという分析も残されている。

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