「九条を前面に出すとこの国はすぐ思考停止に陥り、右だ左だと言い合うばかりで何も進まないという事態が何十年も続いてきました。塩野七生さんもおっしゃっているのですが、まずは誰が聞いても『いい』と言えるような憲法から改正して、『憲法は改正できるものだ』という意識を共有するところからはじめたほうが、結果的には早く憲法を改正できるのではないかと思うんです」(『渡部昇一、「女子会」に挑む!』ワック、2011年)
そして、第二次安倍政権が成立し、与党内で具体的に“改憲の手順”が話し合われていた昨年2月の段階では、国会という場を使って“16年参院選後の改憲”をアピール。安倍首相への質問のかたちで、財政の権限を定めた憲法83条から「お試し改憲」すべきだと水を向けた。
「例えば、緊急事態に関して、八十三条、財政に関して(の改憲)といったような形を想定しておられるのか、総理の今のイメージをお聞かせいただきたいと思います」
「いきなり全部のメニューを最初からというよりも、ひとつそのような形で進める、九十六条(改憲の発議要件)よりも私は八十三条から始めるべきではないだろうか、このように思っております」
自民党の改正案によれば、この83条改憲は、現行の「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使する」という条項に、「財政の健全性は、法律の定めることにより確保されなければならない」という条項を加えるというもの。一見、どうでもいいような改憲に見えるが、実際は、増税や社会保障費切り捨ての根拠になる可能性もある十分に危険な改憲案だ。
小池氏から質問を受けた安倍首相は、慎重に言葉を選びながらもときおり小さく笑みを浮かべるなどまんざらでもない様子だった。実際に、「お試し改憲」が83条になるのか、96条になるのか、あるいは緊急事態条項の新設になるのかはわからないが、この時に見せた阿吽のやりとりからもわかるように、小池氏が都知事になった暁には、安倍首相とがっちり手を組み、改憲のスピーカー役を務める可能性が極めて高いのだ。
「世間では小池氏と安倍首相の仲が悪いという印象で捉えられていますが、実は自民党で小池氏を毛嫌いしているのは森喜朗氏など安倍首相の周辺で、総理自体は別に小池氏とウマが合わないわけではない。実際、今回の都知事選でも安倍首相は周囲に『小池さんでいいんじゃないかな』と漏らしていたといわれています。もちろん、表向きは増田寛也氏支持ですが、それはあくまで建前。一時は明日の応援演説に入るという情報も流れましたが、やはり見送る可能性も高いと伝えられています。いずれにせよ安倍首相は、実際には二股をかけていて、選挙後は勝ち馬に乗るでしょう」(全国紙政治部記者)
また、小池氏のほうも、第一次安倍内閣時に女性初の防衛相に任命してもらったことに多少なりとも恩義を感じているという。事実、今回の選挙戦でも、当初はあれだけ“反・自民都連”を打ち出していたものの、支持が高まるにつれて安倍首相に秋波を送るようになってきた。