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憲法記念日特別企画◉安倍政権と日本会議の改憲プロパガンダの嘘(前)

百田尚樹・製作総指揮の「改憲PR映画」がトンデモすぎる! 幣原喜重郎の発言を捏造していた嘘つき作家

 同書は歴史研究書でもなんでもないが、便宜上これを「三宅版」としておく。「三宅版」の記述は引用元どころか、参考文献すら挙げられていない。しかし、さらにこの元ネタを推察していくと、ある一次資料が思い当たる。それは、幣原内閣の厚相・芦田均による記録、通称「芦田メモ」だ。そこには、問題の閣議についてこう記されている。

〈米国案のPreambleは今一応安倍(能成)文相の手で修辞を改めることとし、第三章は法制局の再検討を期待して午後九時十五分閣議を終った。閣議終了の直前に総理は次の意味を述べられた。
「かかる憲法草案を受諾することは極めて重大の責任であり、恐らく子々孫々に至るまでの責任である。この案を発表すれば一部の者は喝采するであろうが、また一部の者は沈黙を守るであろうけれども心中深くわれわれの態度に対して憤激するに違いない。しかし今日の場合、大局の上からこの他に行くべき途はない」。
 此言葉を聞いて私(引用者註:芦田)は涙ぐんだ。胸いっぱいの気持で急いで外套を引被って官邸を出た。春雨とも言いたい曇りの空の下に黙って広尾に帰った。〉【脚註2】(引用者の判断で一部を新仮名遣いに改めた。以下同)

 ようするに、「芦田メモ」によれば、幣原はこのとき、“GHQ案を一部は喜び、一部は沈黙して憤慨する”とした上で“大局からこれを受け入れるべき”と述べていたのだ。ところがこれを元にしていると思われる「三宅版」は、「芦田メモ」にあった「一部の者は喝采するであろう」という記述を完全にネグり、すべての「国民」が「憤慨している」と書き換えているわけである。百田の言う「幣原首相は『こんな憲法を受け入れて子々孫々、なんと言い訳をすればいいのか』と書き残しています」に至ってはもはや原型すら留めておらず、“でっちあげ”と呼ぶに価する。

 しかも、幣原がGHQ案をもとにした政府草案をつくる旨を伝えた閣議のあとに「涙ぐんだ」(「芦田メモ」)のは芦田その人であり、「これを聞いて閣僚がみな泣いた」(三宅版)、「当時の内閣は全員泣いた」(百田)などという記述は意味不明としか言いようがない。

 なお、幣原は回顧録のなかで、総理就任直後に「憲法の中に、未来永劫そのような戦争をしないようにし、政治のやり方を変えることにした。つまり戦争を放棄し、軍備を全廃して、どこまでも民主主義に徹しなければならん」「国民の意思を実現すべく努める」と堅く決心したと述べている【脚註3】。繰り返すが、そんな幣原が「子孫になんと言い訳をすればいいのか」などと書き残したという記録は、どこを探しても見当たらないのだ。

 憲法制定過程での当事者の声をでっち上げる暴挙。これは明らかに“捏造”だろう。

 百田が得意げに振りまいているデマはまだある。たとえば、「アメリカは文句を言えばもう1回原爆を落とすとほのめかす」という部分だ。元ネタは、前述の46年2月13日の会合で、民政局局長のコートニー・ホイットニーが日本側にGHQ案を手渡した際、終戦連絡中央事務局参与として同席した白洲次郎に語った内容だろう。

 アメリカ側の公式記録によれば、ホイットニーは“We are out here enjoying the warmth of atomic energy”と言ったという【脚註1】。保守派はこの“atomic energy”という言葉に着目し「原爆を想起させて脅迫した」などと主張してきたが、これは被害妄想だろう。なお、ホイットニー自身は自著でこのとき語ったのは“We have been enjoying your atomic sunshine.”だとしている【脚註4】。意味的にはより“日向ぼっこ”に近い。

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