前出の読売新聞と橋本五郎がこれに該当するが、他にも、産経新聞社刊行の保守論壇誌「正論」では、長辻象平・産経新聞論説委員が「Eの探検隊」なるルポを連載している。この連載には「広告」や「提供:電事連」というクレジットこそないものの、読むと、原子力施設関係者が施設を案内したりするなど、東京電力や中部電力が積極的に長辻記者に対して取材協力をしていることがわかる。想像のとおり、ルポの内容は「安全策の向上」などを印象付けるようなものとなっており、これも“原発広告”のバリエーションと呼ぶことができる。
原子力ムラが広告掲載メディアを完全に選別しだしたのは、3.11以後の確かな変化だ。これにはふたつの理由が考えられる。
たとえば、本サイトの調査では、3.11までは原発広告を掲載していた朝日、毎日系メディアあるいは「週刊文春」(文藝春秋)などへの原発広告の出稿は確認できなかった。これは、それらのメディアが福島第一原発の事故で、東電批判や“原子力と政治”をめぐるスキャンダルを報じたからだろう。そこで電力会社と関連団体は、原発推進派の読売、産経、日経そして「週刊新潮」などのメディアにのみ広告を投じることで、“身内”の関係性をより強固なものにし、原子力論陣のスクラムを組もうとしているのではないか、というのがまずひとつ目の理由だ。
ふたつ目の理由もスクラムに関連する。巨額の広告出稿料を一部メディアにだけ集中させることは、必然的に、電力会社や原発政策に批判的報道をするマスコミに対して、ある種の“見せしめ”効果が期待できる。つまり、「これから安倍政権による原発再稼働が着実に進んで、世間の抵抗感は薄れていくよ。でも、君たちみたいなマスコミにはびた一文払う気はないからね」、そうしたメッセージを暗に送ることで、プレッシャーをかけていると考えられるのだ。
いずれにせよ、こうした原発広告の出稿は、安倍政権になって原発再稼働に方針転換したことで、一気に勢いを増した。そして、大飯原発や高浜原発の再稼働を機に、「電力のベストミックス」「現存する放射性廃棄物の議論は避けられない」などといった文言を駆使して、事故と汚染のリスク、そして今でも避難生活を強いられている被災者への意識を薄めにかかる。その一助が、フレッシュな知識人や知性派タレントの新起用なのだ。そして、もちろんその最終的目的は、メディアの原子力批判の完全なるタブー化である。
大復活、いや、新生したと言っていい“原発広告”と“原発文化人”。これが意味するのは、国の存亡を揺るがした3.11以前の状況の再現に他ならない。それでも、金に目が眩んだメディア、タレント、学者は“あの日と、それからの記憶”をネグり、原子力大国への旗を狂乱的に振り続ける。もやはこの国は、3.11以上の“人災”が起こるまで、大きすぎる過ちに気がつけないのだろうか。
(梶田陽介)
最終更新:2017.11.24 08:32