違法な行為をしたのはむしろ政権の側であり、それを非難した岸井氏の主張はむしろ法治国家の報道機関として当然の発言と言っていいだろう。もし、これが許されないなら、テレビ局は、犯罪やテロに対しても、賛否両論併記をしなければいけなくなる。
ようするに、「視聴者の会」は、政権のやったことについては、それがどんなに犯罪性があろうと批判してはならないといっているに等しいのだ。
しかも、連中が悪質なのは、そこに、「放送法」や「知る権利」を歪曲する形で持ち出していることだ。
彼らは岸井氏が「放送法第4条違反だ」と喚き立て、総務省に対して見解を変更して圧力を強めること要求しているが、先日、放送界の第三者機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)が意見書で政権による番組への介入を「政権党による圧力そのもの」と非難した際、明確に示されたように、放送法とは本来、放送局を取リ締まる法律ではない。逆に政府などの公権力が放送に圧力をかけないように定めた法律だ。
放送法は第1条で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めているが、これも政府に対して表現の自由の保障を求め、政治権力の介入を防ぐ規定である。
「視聴者の会」が持ち出した第4条には、たしかに、放送事業者に対して〈政治的に公平であること〉を求める規定がある。だが、その規定についてメディア法の権威である故・清水英夫青山学院大学名誉教授は著書『表現の自由と第三者機関』(小学館新書、2009)でこう解説している。
〈そもそも、政治的公平に関するこの規定は、当初は選挙放送に関して定められたものであり、かつNHKに関する規定であった。それが、「番組準則」のなかに盛り込まれ、民放の出現後も、ほとんど議論もなく番組の一般原則となったものであり、違憲性の疑いのある規定である。〉
〈かりに規定自身は憲法に違反しないとしても、それを根拠に放送局が処分の対象になるとすれば、違憲の疑いが極めて濃いため、この規定は、あくまで放送局に対する倫理的義務を定めたもの、とするのが通説となっている。〉
つまり、第4条は放送局が自らを律するための自主的な規定にすぎず、これをもって総務省ほか公権力が放送に口を挟むことはできないということだ。むしろ第4条を根拠に公権力が個々の番組に介入することは、第1条によって禁じられていると考えるのが妥当だろう。