それを教えてくれるのが、9月に刊行された『憎悪の広告 右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜』(合同出版)だ。同書は1994年からの20年間で日刊全国紙に掲載された右派論壇誌の“広告”をとりあげ、その変化やメッセージを考察した一冊。引用されている図版の総数は実に140点以上、めくるめく“愛国、反中、嫌韓”の惹句を解読するのは、右派の世界観における歴史修正主義やヘイトスピーチの位置付けを研究する能川元一氏と、戦前・戦中日本の翼賛型図版の蒐集・分析などで知られる早川タダノリ氏のふたりだ。
たとえば、雑誌媒体で「反日嫌韓」というフレーズが用いられた初期の90年代半ば、「SAPIO」(小学館)94年2月24日号の広告では、〈見えない「日韓大戦争」〉という見出しこそ突飛だが同時に〈「アジアの時代」になぜ憎しみあい、侮辱しあわねばならないのか?〉とあって、日韓関係が相互的な問題を孕んでいることを示唆している。ところが2000年代に入ると、同じ「SAPIO」でも〈韓国「反日症候群」の正体〉(01年9月26日号)と一方的に“反日”を問題視するように。
そして、第二次安倍政権誕生の翌年、「ヘイトスピーチ」がユーキャン新語・流行語大賞トップ10に入った13年には、差別的侮蔑〈日本人が知っておくべき「嘘つき韓国の正体」連動大特集〉(同年5月号)や、錯乱した“勝利宣言”〈韓国がついに日本にギブアップ!〉(同年7月号)まで登場。どんどん扇情的かつ下劣になっていったことがわかる。
だが、15年に入ると、あれだけの賑わいを見せた“嫌韓ヘイト見出し”も右派論壇誌でやや控えめになり、同じく出版ラッシュだった嫌韓反中本の勢いが下火になっていることも事実。その代わりに隆盛を極めているのが、テレビ番組や雑誌・ムックで溢れる「日本(人)はスゴイ!」なる“日本礼賛言説”だ。しかし、実はこのふたつ、右派論壇ではさながら“双子”のような間柄だったのである。
「嫌韓本の売り上げが落ちているのは、すでに市場を食い尽くしたからでしょう。いま、社会全体としては『日本スゴイ!』的な言説のほうに注目が移っていますが、『憎悪の広告』の制作過程で、その出発点が1997年ごろにあったことが見えてきました」