阿比留瑠比『歴史戦 朝日新聞が世界にまいた「慰安婦」の嘘を討つ』(産経新聞出版)
朝日新聞がいわゆる「吉田証言」に関する従軍慰安婦関連の記事を取り消したことに端を発した昨夏の報道問題では、右派メディアやネット右翼たちが執拗に“朝日バッシング”を繰り返した。なかでもそのスケープゴートにされたのが、過去に従軍慰安婦の記事を2度執筆した、元朝日新聞記者・植村隆氏だ。
植村氏の記事は朝日が虚偽だと認めた「吉田証言」とは無関係だが、右派メディアは、植村氏が1991年に元慰安婦の証言テープの内容を含むスクープ記事を出したことについて「事実上の人身売買であるのに強制連行されたように書いた」などとして、「植村は捏造記者だ!」と個人攻撃に血道をあげた。
そして、同時期の「吉田調書」報道の一部訂正や、安倍官邸と自民党が“朝日潰し”の動きを誘導したことで、植村氏は一連の朝日報道問題の“アイコン”に仕立て上げられた。非常勤講師を務めている北星学園には脅迫が殺到、さらに本人だけでなく娘にも殺害予告が届くなど、“リンチ”とも呼べる状況が続いたのである。
それから1年後の今年8月4日、“朝日バッシング”の急先鋒だった産経新聞紙上に、植村氏のインタビュー記事が掲載された。
インタビューしたのは、産経新聞政治部編集委員・阿比留瑠比記者。第一次政権時代から安倍首相べったりの論陣を張り、NHKの岩田明子記者とともに“安倍首相の助さん格さん”といわれている人物だが、阿比留記者はこの間の朝日叩きにも異常な執念を燃やし、植村氏に対しても、「(植村氏の)この誤った記事が慰安婦問題に火が付いた大きなきっかけとなった」(産経新聞2014年8月8日付)「植村氏もそうですが、朝日の方々は本当に誰も反省しない。『自分が悪かった』『自分の責任だ』との思考が欠落しているのではないかと思うほどです」(産経新聞出版『「正義」の嘘』所収)などといった批判を浴びせてきた。
つまり、今回のインタビューは、朝日問題勃発から1年、産経がエースの阿比留記者を投入し、植村氏を徹底的にやり込めてやろうとオファーしたらしい。実際、記事は1面、3面、27面を使ったもので、その内容も〈【植村元記者に聞く】「テープ聞いたの一度だけで記事書いた」〉〈【インタビュー詳報】証言テープ「僕は持っていない」〉という見出しをみてもわかるように、徹底して朝日と植村氏をこきおろすものだった。
ところが、その紙面記事掲載から約1カ月後、“対決”は意外な展開を見せる。産経が8月29日からWeb版で全10回に分け、超長文の「インタビューの詳報」を改めて公開したのである。