もうひとつ、知っておかなければならないのがアメリカとイスラエルの特殊な関係だ。米上院は14年7月8日、イスラエルがガザ攻撃を始めた10日後に全会一致でイスラエル支持決議を成立させた。決議には「ハマスのイスラエル攻撃はいわれのないもの」であり、「アメリカはイスラエルとその国民を守り、イスラエル国家の生存を保障する」とあった。イスラエルのガザ攻撃は国際法を踏みにじる行為であり、イスラム諸国はいうまでもなく、ヨーロッパ各地で大規模な抗議デモが起きている。パレスチナ人2000人以上が犠牲となり、500人余りの子どもも殺された。そんな虐殺行為が満場一致で支持されたのだ。
この“虐殺支持”の背景には、イスラエル・ロビー(圧力団体)の活動があった。アメリカの議員の多くはイスラエル・ロビーから多額の政治献金を受け取っている。イスラエル・ロビーはアメリカ社会のあらゆる分野の重要なポジションを押さえているため、彼らの活動を批判すると政治家としての地位を脅かされたり、選挙に当選することができなくなったりする。それがアメリカの中東政策を著しく偏ったものにしている、と前出の宮田氏は言う。
イランの核開発を問題にするアメリカは、同じ中東に位置するイスラエルの核兵器についてはまったく問題にしていない。アラブ諸国に対してはNPT(核不拡散条約)に加盟することをしきりに促しているが、イスラエルにはそうした姿勢は微塵もみせない。パレスチナ人が何人殺されようと、おかまいなしだ。それどころか、全会一致で殺害行為を支持してしまう。「イスラム国」に参加する若者たちには、そんなアメリカの“不正義”に対する憤懣があるにちがいない、と宮田氏は分析する。イスラエル・ロビーの圧力を受けた米政府の“不公正”な中東政策が、結果として「イスラム国」やアルカイダなどの過激派組織の台頭をもたらし、彼らの主張や活動に正当性を与えてしまっているというのである。
それだけではない。アメリカはイスラエルの意向を受け、イスラエルにとって不倶戴天の敵であるイランに執拗な圧力をかけ続けてきた。その延長でイランとつながりの深いシリアのアサド政権も敵視し、一時は空爆による軍事介入さえしそうになった。このときも、アサド政権が化学兵器を使っているという、これまた真偽不明の情報に踊らされた。
アメリカにとってのジレンマは、アサド政権が弱体化すると「イスラム国」の勢力が拡大してしまうことだ。そこで、やむなく「イスラム国」と敵対しながら、アサド政権打倒も掲げる“穏健な武装勢力”である「自由シリア軍」を支援するという作戦をとらざるを得ない。だが、これは支離滅裂な話である。なぜなら、作戦がうまくいってシリア国内で「イスラム国」が弱体化すると、今度はアサド政権が息を吹き返すことになるからだ。しかし、打倒アサド政権のためにアメリカが「イスラム国」を支援するわけにはいかない。本来なら、イランと和解・協力して、対「イスラム国」作戦を進めるべきだが、イスラエルやアメリカ国内の右派、ネオコンの反対もあってそれもなかなか容易でない。