実は、最近の若手監督によるジブリ映画は、その「岩波少年文庫の50冊」で紹介されている作品がほとんどなのだ。息子・吾朗監督のデビュー作である『ゲド戦記』も宮崎監督が同冊子の中で強く薦めているし、2010年に公開された『借りぐらしのアリエッティ』も同書のなかに登場する『床下の小人たち』が原作。そして、現在公開中の『思い出のマーニー』についても、宮崎監督が同冊子で「この本を読んだ人は、心の中にひとつの風景がのこされます。入江の湿地のかたわらに立つ一軒の家と、こちらをむいている窓」と書いている。
宮崎監督は、この岩波少年文庫をアニメのネタ探しのために片っ端から読んだと告白しており、『クローディアの秘密』など、アニメ化を試みたことがある作品も少なくない。そして、その思いは若い監督達に受けたがれてきた。いわば、岩波少年文庫は宮崎アニメ、ジブリアニメの源泉と言ってもいい存在なのだ。
おそらく、それは宮崎監督が引退した今後も変わらないだろう。実際、『思い出のマーニー』も宮崎駿が一切関わっていない作品だが、明らかに宮崎監督がこの岩波少年文庫収録の作品を気に入っていたことが企画採用の大きな要因となっている。
しかも、前回の記事で、宮崎監督が『風立ちぬ』の次に「いまの時代にほんとうに観てよかったと思える新しいファンタジー」をつくろうとしていたことを紹介したが、次回作が宮崎監督の復帰作になる可能性も十分あるのだ。
「監督でなくとも、原案や原作という形で復帰する可能性は十分ある。とくにもしジブリが本当に解散するなら、必ず宮崎さんが何らかの形で関わる作品が最後の作品になるはずです」(前出・関係者)
ならば、ますます宮崎監督が「岩波少年文庫の50冊」で紹介している、監督の大好きな作品が次回作になる可能性は高いといえるだろう。
では、具体的にどの作品が候補なのか? 実は「岩波少年文庫の50冊」で、宮崎監督はすべての作品を手放しでほめているわけではない。宮崎監督らしくかなり率直に感想を書いていて、気に入っていない作品、本当にいいなと思っている作品もすごくもわかりやすい。
たとえば、『ハイジ』(ヨハンナ・シュピリ)については、自分たちのアニメの方がはるかにできがいいという意味のことを書いているし、『ロビンソン・クルーソー』(デフォー)も白人が力で収奪するのが「気になる」と指摘している。
逆にかなりの字数をさいて、思い入れたっぷりに語っているのが、『まぼろしの白馬』(エリザベス・グージ)『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー)『みどりのゆび』(モーリス・ドリュオン)『ぼくらはわんぱく5人組』(カレル・ポラーチェク)という4作品だ。
まず、『まぼろしの白馬』は宮崎監督が69歳のときに中川李枝子氏(『ぐりとぐら』作者で『となりのトトロ』の挿入歌の作詞も務めた)に薦められはじめて読んだ作品。前述したように、宮崎監督は「いまの時代にほんとうに観てよかったと思える新しいファンタジー」をつくることが自分たちの使命だと語っているが、この作品を「ほんとうのファンタジー」と絶賛している。しかも、女の子が主人公で「不思議なところがあちこちにある」という設定も、宮崎監督の好みのような気がする。