靖国は戦後、内部で戦前回帰志向を強めただけではない。2000年前後ごろからは、歴史修正主義的な言論の盛り上がりに乗っかる形で、積極的にさまざまな政治的動きを仕掛けるようになる。
とくに、2018年、安倍元首相の後見人として知られるJR東海の葛西敬之会長や神道政治連盟幹部らの推薦で小堀邦夫氏が宮司に就任すると、その動きはエスカレートした。
そのひとつが、「みたままつり」などを使った若者の教化路線だ。みたままつりをめぐっては、風紀の乱れなどがあり、小堀氏の前任の徳川康久宮司が「静かで秩序ある参拝をしてほしい」として、露店の出店を禁止するといういきさつがあった。
ところが、小堀氏は、みたまつりが資金集めと「将来の靖国の若者の教化の格好の機会」ととらえ、中止されていた露店出店を再び解禁したのである。
また、小堀氏は天皇の参拝を実現しようと躍起になった。そして、2018年6月20日、靖国神社の社務所会議室で行なわれた「第1回教学研究委員会定例会議」では、当時の天皇(現・上皇)に対するこんな攻撃的な批判を口にしていたことが発覚した。
「陛下が一生懸命、慰霊の旅をすればするほど靖国神社は遠ざかっていくんだよ。そう思わん? どこを慰霊の旅で訪れようが、そこには御霊はないだろう?」
「はっきり言えば、今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか?」
さらに、小堀氏はこのとき、当時の皇太子(現・天皇)と皇太子妃(現・皇后)に対してもこんな発言をしていた。
「(今上天皇が)御在位中に一度も親拝なさらなかったら、今の皇太子さんが新帝に就かれて参拝されるか? 新しく皇后になる彼女は神社神道大嫌いだよ。来るか?」
小堀宮司はこの発言の発覚でその年の秋に退任に追いやられたが、靖国拡大のためには天皇までをも攻撃する靖国至上主義と若者向け教化拡大路線は引き継がれ、靖国は最近禁止されたものの、軍服コスプレが闊歩する愛国エンタメと、戦意と極右思想を煽るイデオロギー装置という二つの要素が合体したグロテスクな性格をますます強めていったのである。
いずれにしても、靖国神社の理念が「祖国を平安にする」「平和な世を実現する」などという建前とは程遠い、国家のために身を捧げる“新たな英霊”を用意するためのイデオロギー装置であることは明白だろう。
そして、靖国神社を参拝するということは、先の大戦に対する反省や、多くの国民を犠牲にした贖罪を伴った行為とは真逆の行為なのだ。