そして、排外主義の萌芽となる地ならしをしてきたのは、政党や国会議員だけではない。テレビや新聞などのマスメディアも同罪だ。とくにテレビのワイドショーや情報番組では、参政党ブームよりずっと昔から、連日のように「外国人の迷惑行為」「外国人のマナー違反」「外国人による不動産購入」といった話題を“数字が稼げるネタ”として、こぞって取り上げてきた。とくに最近はインバウンドの急増とともに一気にその手の話題が増えている。
一方、日本に暮らす外国人や海外にルーツを持つ人びとに対するヘイトスピーチが社会問題になっても、多くのマスメディアはそれを黙認。そればかりか、テレビは法務省・入国管理局と一体化してオーバーステイの摘発の様子などを放送し、なぜ非正規滞在に至ったのかといった事情やバックグラウンドにまったく触れることはなく、一方的に外国人を極悪人のごとく扱ってきた。
しかも、こうした排外主義に公共放送・NHKまでもが加担。たとえば、2018年6月6日放送の『クローズアップ現代+』は「自称“難民”が急増!? 超人手不足でいま何が…?」と題して特集したが、その内容はあたかも難民申請者は就労目的の“偽難民”ばかりだと主張するかのようなものだった。また、同年7月23日放送の同番組の特集「日本の保険証が狙われる~外国人急増の陰で~」では、厚労省の実態把握で蓋然性のある事例がほぼ確認されていないにもかかわらず、医療目的で来日する外国人が目的を偽り国保に加入して高額な医療サービスを受けているなどと報道したのだ。
政党・政治家のみならず、テレビというマスメディアまでもがデマや事実の歪曲、不正確な情報によって外国人に対する偏見や憎悪を煽る──。14日に放送された『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)ではコメンテーターの玉川徹氏が、参院選で「外国人問題」が争点化していることに対して「政治がある属性の人たちをやり玉にして、それに多くの日本人が反応しているという状況が僕は怖い」と述べたが、一方でテレビの責任にも言及。同番組でも外国人の話題をネガティブに取り上げてきたことを踏まえ、反省すべきと自戒していた。
だが、その反省も遅きに失したと言わざるを得ない。どれだけマスメディアがファクトチェックの結果を発信し、外国人デマが拡がっていることを注意喚起しても、SNS上では多くの人びとが集団ヒステリーを起こしたかのように外国人排斥を振りかざし、憎悪や嫌悪をむき出しにし、偽情報を喧伝する政治家の動画や発言を拡散させて賛同を呼びかけている。事実や正確な情報には耳を貸さず、ほとんど意味をなさない状態だ。
残念ながら、参政党の躍進はもはや止められそうにない。そして、先行事例として兵庫県の斎藤元彦知事およびその支持者らの振る舞いを参照すれば、選挙後は候補者の当選や党の躍進を免罪符にして差別的主張を正当化、先鋭化していくだろう。
しかし、それでもデマにはデマだと反論し、排外主義には「それは差別だ」と訴えつづけるしかない。マスメディアが参政党をはじめとする排外主義的主張に疑義を呈すれば、今回の『報道特集』に対する攻撃のように「偏向報道だ」「オールドメディアは嘘ばかり」といった声が高まるのは火を見るより明らかだ。だが、差別的言辞や主張を放置すれば、外国人を命の危険に晒すばかりか、高齢者や障がいを持つ人、出産を選択しない女性、性的マイノリティといった社会的弱者にもさらに刃を向け、差別がエスカレートしていくのは確実だからだ。
差別を食い止めるために。政治家、そしてメディアの役割と責任が、いま問われている。
(編集部)
最終更新:2025.07.18 08:46