自己保身のために辻褄の合わない詭弁を繰り返す……。あまりに政治倫理が欠如しているとしか言いようもないが、しかし、今回の安倍派4人衆の説明では、大きな矛盾や食い違いが露呈した。
それは、裏金事件の大きな焦点のひとつである、キックバックの復活の経緯をめぐる説明でのことだ。
西村氏や塩谷氏の説明によると、2022年7月の安倍氏の死去後、安倍派内からは裏金キックバックの継続を求める声が出たことから、同年8月上旬に塩谷氏の事務所で塩谷氏、西村氏、下村氏、世耕氏、松本氏の5人が集まって協議を実施したという。
前述したように、西村氏は「(派閥からの)還付が適法とか違法とか法的性格は議論していない」という主張を繰り広げたが、一方、質問に立った立憲民主党の枝野幸男・前代表は、この協議に出席していた下村氏の発言をもとに切り込んだ。
というのも、下村氏は1月末に開いた会見において、8月上旬の協議では出席者のひとりから「個人のパーティに(キックバック分を)上乗せして、収支報告書で合法的なかたちで出すという案」が出されたと口にしていた。この案は虚偽記載にほかならず合法的でもなんでもないのだが、枝野氏は、じつは西村氏は安倍派で唯一、このかたちで裏金を処理していたため、下村氏が言っていた案を出した人物は西村氏ではないのか、と追及したのだ。
この追及に対し、西村氏は「アイデアのひとつとして、今後議員が開くパーティ券を清和会が購入するということはどうかという代替案が出た」「私自身も『検討できるのではないか』と発言した。この方策が実際に採用されたわけではない」と述べ、自分は発案者ではないと否定。状況証拠を考えると西村氏が発案者だと考えるのが妥当だが、問題なのは、下村氏が「合法的なかたちで出す案」と口にしていた点だ。8月の協議の時点で「合法的な案」が検討されていたということは、違法性を認識していたということにほかならないからだ。西村氏や下村氏、塩谷氏、世耕氏らが「違法性を認識していなかった」とは、到底考えられない。
政倫審でますます深まった、安倍派幹部らの「違法性の認識」をめぐる問題。しかし、今回の政倫審だけでは全容解明にはまったくいたらず、さらなる追及が必要であることがはっきりとした。
実際、肝心のキックバック復活を誰がいつ決めたのかについて、当事者たちはいずれも有耶無耶な説明に終始。西村氏は8月上旬の協議では「結論は出なかった」とし、自身が事務総長の座を離れた同年8月10日以降に決定したことであり自分は経緯を何も知らない、と主張。他方、塩谷氏は8月におこなった会合において「継続でしょうがないかなというぐらいの話し合いで継続になったと理解している」と発言。8月25日に西村氏から事務総長を引き継いだ高木氏は「11月に派閥の事務方から『やっぱり返すことになった』という話があった」とし、「執行部的な方々で決め、そのうち、そういったみなさま方で元に戻したように思っている」と述べた。
塩谷氏が口にした「継続でしょうがないかな」と決まった8月の会合とは、西村氏の言う8月上旬の協議と同じなのか、それとも違うのか。もし同じなのであれば「結論は出なかった」と言う西村氏の証言は嘘になるし、違うのであれば、高木氏が西村氏から交代して事務総長に就任するまでの13日間のあいだに決まったのか、あるいはそれ以降に高木氏も同席したかたちで決まったのか。はっきりしないことばかりが残されたかたちだ。