しかし、問題なのは、これだけ醜態を晒したり暴言を連発していながら、岸田首相に対する批判の声が高まらないことだ。
冒頭で触れたように、防衛費倍増や敵基地攻撃能力の保有、次世代原発の新設など、岸田首相がやろうとしていることは安倍元首相すら実行に移せなかった政策ばかり。自民党の閣僚経験者も「安倍・菅政権時にこれほど重大な政策をこんなに短期間で決めていたら、首相官邸はデモ隊で囲まれていただろう」と述べているほどだ(毎日新聞2月27日付)。逆に言えば、岸田首相は自身への批判が安倍・菅政権時のようには高まらず、デモ隊に囲まれることもないと高を括り、付け上がっているとも言えるだろう。
しかも、もっとも怖いのは、岸田首相に「安倍元首相が乗り移っている」のではなく、岸田首相自身、「安倍元首相でもやれなかったことを達成させ、歴史に名を残したい」と考えているフシがあることだ。
実際、防衛力の抜本強化を決めたときには、岸田首相は「安倍さんなら大反発を受けていたところだ。自分はやりきった」と周囲に語り、昨年末に安保関連3文書の改定や防衛予算の増額などを決定したあとも、岸田首相は自身に近い自民党幹部と会食し、「結局、全部やったのは俺だよ」と述べたという(朝日新聞1月26日付)。
「自分はやりきった」「全部やったのは俺」……これらの発言からは岸田首相の驕りや虚栄心の強さがよくわかるが、このように“安倍超え”を岸田首相が目指しているとすれば、当然、手をつけるのは、憲法改正だろう。毎日新聞2月27日付の記事によると、岸田首相は以前、自民党「憲法改正実現本部」の会合に出席した際、こう語ったという。
「私はリベラルな政治家と言われるが、先人が挑戦して達成し得なかった憲法改正を必ずや実現したい」
生前、安倍元首相は岸田首相について「リベラルな印象の岸田さんが同じことを言っても、私ほどは反発を受けないはず」(「WiLL」2021年12月号/ワック)と言及したほか、岸田首相が自分の意志のままに操られるだけの存在であることを平然と語っていた。だが、その安倍氏が亡くなったことにより、岸田首相は“自分こそが安倍を超える”という闘争心を燃やしているのではないか。そして、安倍氏以上の功名を立てるには「憲法改正の実現」しかない。
「リベラル」のイメージとは裏腹に、安倍元首相となんら変わらない黒い欲望をもつ岸田首相──。そのイメージに騙されることなく「安倍・菅以上に警戒すべき人物」であるという危機感を高めなければならない。
(編集部)
最終更新:2023.03.02 05:11