では、井上候補はどんな差別発言をしたのか。いまネット上で拡散され、問題になっているのは、井上氏が参院選公示日の6月22日におこなった街頭演説での動画。井上氏はその演説のなかで、「親学」がベースとなった家庭教育支援法の必要性を訴え、「いま私は分岐点だというふうに思っています。なぜ分岐点か。それはいままで2000年培った家族のかたちがだんだんとほかの外国からの勢力によって変えられようとしているんです」と語ったあと、このような話をはじめている。
「昔はみなさん、考えてみてください。おじいちゃん・おばあちゃんやお孫さんと住んだ三世代を。そのときは社会保障そんなに増えてこなかった。でも、核家族だ核家族だ保護主義だ、こういうことを言っている。そして、どんどんどんどん、僕、あえて言いますよ。同性愛とか、いろんなことで、どんどんかわいそうだと言って、じゃあ家族ができないで家庭ができないで、子どもたちは本当に日本に引き継いでいけるんですか? しっかりと家族を生み出し、そして子どもたちが多く、日本にしっかりと生み育てる環境を、私たちがいま、つくっていかなくてはいけないと思いませんか、みなさん!」
社会保障費の増加や少子化の原因を核家族化に結びつけている時点でどうかしているのだが、言うに事欠いて井上氏は“同性愛者は家族ができない”という文脈で批判しはじめたのだ。これは2018年に自民党の杉田水脈・衆院議員が“LGBTは子供をつくらない、つまり生産性がない”と主張して大きな批判を浴びたのと同じ差別的主張にほかならないものではないか。しかも、井上氏はこの差別的言辞を、自身が出馬する選挙戦の街頭演説において大声で繰り広げたのだ。
しかし、さらに絶句させられたのは、この差別的演説の動画を、安倍元首相が拡散させていたことだ。
井上氏が問題となっている街頭演説の模様をおさめた動画をTwitterに投稿すると、6月23日に安倍元首相はそれを引用リツイート。このようにメッセージを寄せていた。
〈高校を卒業後国鉄に就職。現場で働きながら大学を卒業し内閣府へ。第一次政権で総理秘書官を務めてくれた井上義行さん。どうか宜しくお願いします。〉
よりにもよって、元首相が差別的演説の動画を拡散させるとは──。だが、こうした演説が繰り広げられることも、自民党議員の会合で差別冊子が配布されるといったことも、安倍元首相が絶大な影響力を持つ自民党では、ある意味、当然のことだ。