しかし、安倍元首相の息がかかった問題ある候補者は、杉田氏だけではなく、もうひとりいる。それは、長崎1区から自民党公認で初出馬する初村滝一郎。この名前に見覚えのある人も多いだろうが、初村氏は安倍元首相の事務所で政策秘書を務めてきた人物だ。
初村氏といえば、過去には首相の秘書でありながらFacebookで「保守速報」の記事を紹介したことでも物議を醸したが、じつは初村氏の父・謙一郎氏は安倍元首相が加計学園の加計孝太郎理事長と親交を深めた南カルフォルニア大学留学時代からの親友。ジャーナリスト・森功氏の『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)によると、父・謙一郎氏との縁から初村氏は安倍事務所の秘書となり、「金庫番として事務所の顔」に。安倍夫妻が仲人を務めた初村氏の結婚披露宴には加計理事長やNHKの岩田明子記者が出席していたことがわかっているが、そればかりか「滝一郎君は安倍首相の懐刀であり、安倍首相本人が目に入れても痛くないほど大切にしてきた。昭恵夫人もずい分、気に入っていて一時は養子にするのではないか、とも囁かれていた」という。
だが、このように「安倍首相の懐刀」と呼ばれてきた初村氏は、当然ながら安倍元首相の数々の疑惑でもその名前が浮上。たとえば、国会で森友学園の国有地売却問題が取り上げられ、昭恵夫人が名誉校長を辞任した際には、籠池泰典氏が「ハツムラさん」から「コワモテの声で」電話があったと証言。「(名誉校長から)降ろせ」「今日中に顔写真すべて外せ」と打診してきたと語っていた。
さらに、「桜を見る会」前夜祭問題では、安倍事務所側は会場となったホテルニューオータニの広報部長ら2人を議員会館にある安倍事務所に呼び出し、「会費は5000円」だと口裏合わせを要求。その後、初村氏が官邸に出向いて安倍首相にその報告をおこなったと「週刊文春」が報道している。
つまり、初村氏は安倍夫妻から寵愛を受けてきただけではなく、森友問題や、安倍氏が検察審査会から「不起訴不当」と議決された「桜前夜祭」問題の真相を知る立場にある「疑惑のキーパーソン」なのだ。
そして、当然ながらこの初村氏の衆院選出馬にも、安倍元首相は一枚噛んでいる。西日本新聞の報道によると、自民党の長崎県連が衆院長崎1区の候補者の公募を始めた際、地元政界関係者のもとに安倍元首相から直接、こう電話があったというのだ。
「うちの秘書が応募するので、しっかりと公正に選考してください」
長崎県連では公募前にはすでに女性県議を候補にすることで話は進んでいたというが、この安倍元首相の「鶴の一声」によって一変。さらに〈閣僚や安倍氏周辺から地元国会議員、業界団体への働き掛け〉などもあり、結果として初村氏の擁立が決まったという。