まさしく「メディアジャック」と呼ぶべきものだが、繰り返すがこれは岸田氏の出演に絞ったものであって、告示前には河野太郎や高市早苗、野田聖子といった候補者がそれぞれワイドショーやニュース番組に単独出演してきたのだ。
さらに、候補者が出演せずとも、ワイドショーやニュース番組はこの間、総裁選の話題を大々的に取り上げてきた。自民党は各候補の出陣式にはじまり、所見発表演説会や「党風一新の会」と候補者との意見交換会、共同記者会見、4日間の政策討論会などと“ニュースのネタ”をばらまいていたが、テレビはそのネタに食いついて毎日のように紹介してきた。
その一方、野党が打ち出す政策や動きについて紹介する時間は申し訳程度で、総裁選中に野党4党の代表らを出演させて総裁選候補者の主張と比較するなど、まともに野党の政策を取り上げたのは『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)だけ。あとは、自民党PR報道のみならず、八代英輝弁護士が共産党のデマ発言をおこなって同党と野党共闘を攻撃した問題で批判を受け、スポンサーのCM放映休止という事態に陥った『ひるおび!』が、アリバイ的に野党議員を出演させるようになったことくらいだ。
つまり、衆議院の任期満了が近づき選挙が間近に控えていることは明々白々であるなかで、テレビは視聴者のほとんどが投票権さえない政党内の選挙の報道に明け暮れ、それだけに飽き足らず、総選挙の公示まで約1週間というタイミングでも自民党・岸田首相の一方的な主張を喧伝しつづけたのだ。
もちろん、これから『報ステ』だけでなく各局の報道番組で与野党代表を集めた討論がおこなわれるが、自民党の代表たる岸田首相だけが単独インタビューを受けたことはこれで相殺されるものではない。しかも公示後はどの局も放送法や公選法を気にして、総裁選のときに繰り広げたような選挙報道はおこなわなくなる。ようするに、野党が政策について主張する機会が自民党にくらべて圧倒的に少ないまま投開票を迎えるのだ。
本サイトでも既報のとおり、今月5日放送の『ひるおび!』では、野党の代表らを出演させながらも自民党の補完勢力である日本維新の会の松井一郎代表が野党共闘にウザ絡みを繰り広げただけなく、構成や進行も“野党下げ”のために仕掛けたのかと言いたくなるような内容だったが、そのなかで芸人のバービーは「こうやって野党を一列に並べるような話し合いじゃないほうがよかった」「おひとりずつちゃんと聞けたほうが(よかった)。この間の(自民党)総裁選のときは、おひとりずつ聞けたじゃないですか」と指摘していた。まさしく至極当然の指摘だが、テレビ局側にはこの真っ当な感覚がない、ということなのだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2021.10.14 09:51