しかも、その内実は、菅首相が言っていた「全国の新型コロナ対策センターとしての役割を果たす」などというものとは程遠い。
菅首相は「200床まで拡大する」と言うが、国民民主党の玉木雄一郎代表が厚労省から得たという資料(8月25日付)によると、7月末時点の都内にある国立病院機構の3病院(骨・運動器疾患を主に専門とする1病院は除いた数/3病院の病床数1541床)のうちコロナ確保病床数は128床となっている。つまり、増える病床は72床にすぎないのだ。
だいたい、菅首相が国立病院機構の病床について明言したのは、都内についてのみ。繰り返すが、昨年の第3次補正予算で国立病院機構には「医療提供体制の整備」として93億円もの予算が付けられているのだ。にもかかわらず、なぜ全国で増やそうとしないのか。これで「全国の新型コロナ対策センターとしての役割を果たす」などと言えるわけがない。ちなみに、JCHOのほうは言及さえなかったが、こちらも都内5病院(病床数1455床)のうちコロナ確保病床数は158床にすぎないのだ。
いや、これだけだけではない。じつは国立病院機構のコロナ患者受け入れにかんして、聞き捨てならない話も出ているのだ。
というのも、昨日おこなわれた衆院厚労委員会の閉会中審査では、長妻議員が質疑の最後に「首をかしげる通知・指示が国立病院機構から出ている」とし、こんなことを口にしていたのだ。
「国立病院機構は全国に140の病院があり、そこが新型コロナを診た場合、補助金が出ます。その補助金が出たならばそれを借金返しに回してくれと。本部が各病院にお金を貸しているらしいんですが、(借金返済に)回してくれと。こういう指示が出てですね、ちょっと現場は相当問題だということで声が聞こえておりまして」
コロナ患者を受け入れることで得られる補助金は、言うまでもなく治療の最前線に立って奮闘する医療従事者の手当として真っ先に振り分けられるべきだ。なのに、国立病院機構の本部は各病院に「借金返済に回せ」と指示している──。長妻議員によると、どうやらこの問題を指摘したところ、国立病院機構の本部は「訂正の通知を出す」と返答したということだが、このような現場軽視の姿勢で「全国の新型コロナ対策センターとしての役割」など果たせるのか。いや、それ以前に、これまで「医療提供体制の整備」という名目で同機構に振り分けられてきた100億円を超える予算は本当に適切に使われているのか、疑問が湧いてくる。
ともかく、国会で「率先して病床確保を指示する」と国民に約束しながら、菅首相はいまのいままで動こうともせず、この期に及んでも病床確保に真剣に取り組む素振りも見えない。「明かりは見え始めた」どころか、先行きは真っ暗と言わざるを得ないだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2021.08.26 06:41