しかも、前述したように西村大臣は「やるなら全員が毎日毎日受けなきゃいけない」と言って無症状者へのPCR検査実施を否定していたが、五輪の観客に求めるのは〈観戦日の前1週間以内の陰性証明書〉。つまり、PCR検査をすり抜けてしまう観客が出てくる可能性が当然ある。その上、読売の記事では〈PCR検査など〉と書かれており、抗原検査による陰性証明書を認める可能性さえある。
現在、日本政府は海外からの入国・帰国者に対して滞在国出国前72時間以内の検査による陰性証明書の提示を求めた上で到着空港での検査を実施、さらに宿泊施設や自宅での待機期間を求めている。一方、アメリカが日本への渡航中止を勧告しているように、この国は客観的に見て「感染拡大地域」であり、国内の観客とはいえ陰性証明書の提示のみでは「徹底的な感染防止対策」「安心安全の大会」などとはとても言えないだろう。
その上、さらに恐ろしいのは、今後の感染予測だ。
東京大大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授らがまとめた試算によると、6月中旬に緊急事態宣言が解除され、かつインド型変異株が蔓延した場合、1日100万回のワクチン接種がおこなわれたとしても7月中旬あたりから都内の新規感染者数は右肩上がりとなり、9月第1週には1日2000人を超えると試算。ワクチン接種が1日60万回の場合は8月第1週には1日2000人を超えるというのである。
インド型変異株については、5月19日におこなわれた厚労省新型コロナ対策アドバイザリーボードで西浦博・京都大学教授が「2カ月程度よりも短いスパンで置き換わりが起こるものと考えられる」と警鐘を鳴らしており、この国の危機感ゼロの対策では蔓延は避けられそうにもない。また、ワクチン接種も現在は1日の接種回数は平均40万回と言われており、100万回には程遠い。つまり、このままでは東京五輪開催と合わせて都内の感染者はうなぎのぼりとなっていくことが予想されるのだ。
そして、こうした試算を政府が把握していないとは考えにくい。つまり、菅首相はインド型変異株が国内で猛威をふるい、医療提供体制が逼迫することも十分予見されることも織り込み済みで、それでも観客を入れた東京五輪の開催を強行しようとしているのである。