しかも、今回の報道でさらに重要なことは、批判の矛先のすり替えがおこなわれたことだけではなく、この問題のもっとも肝心な「本題」を、どのワイドショーも伝えようとしなかったことだ。
じつは、今回の問題をスクープした「週刊文春」(文藝春秋)の記事の「本題」は、電通と森氏を後ろ盾にした佐々木氏が演出トップの座をめぐって繰り広げた「権力争奪劇」であり、事実上の演出責任者を任されていたコレオグラファーのMIKIKO氏を「排除」した問題だ。
そもそも、2018年に発表された東京五輪開閉会式の演出チームの「総合統括」は狂言師の野村萬斎氏だったが、「週刊文春」によると、野村氏は森氏の主導で肩書きはそのままだが事実上の責任者から降ろされ、2019年にはPerfumeや「恋ダンス」を手掛けてきたMIKIKO氏が事実上の演出責任者となっていた。しかも、MIKIKO氏がまとめあげた企画案はたんなる「お国自慢」ではない出来で、2019年7月におこなわれたコーツ副会長らIOCへのプレゼンでも高評価を得たという。
一方、佐々木氏はパラリンピックを担当していたのだが、MIKIKO氏が佐々木氏に「ストーリー作りができる人材を紹介してほしい」と相談したところ、佐々木氏は「自分がやる」と乗り出し、森氏を後ろ盾にして五輪の開閉会式のチームにも参加するようになった。
本サイトの既報でもお伝えしたように、森氏はリオ五輪での「安倍マリオ」が大のお気に入りで、その演出に携わった佐々木氏を目にかけてきた。そんな森氏のバックアップを得て五輪開会式の演出チームに加わった結果、くだんの「渡辺直美をブタに」というアイデアが飛び出したわけだが、問題はそのあと。五輪の開催延期が発表されると、森氏と「親密」な関係にあり、佐々木氏と同期である電通代表取締役社長補佐の髙田佳夫氏が、佐々木氏を「コロナ緊急対策リーダー」に抜擢。このとき佐々木氏が「自分一人で式典をイチから決めたい」という条件を出したことから、すでに500名ものキャスト・スタッフを固めて企画が完成に近づいていたにもかかわらず、MIKIKO氏は責任者を降ろされてしまうのだ。
しかも、それまでも「天皇」のように振る舞ってきたという佐々木氏は、自身の企画案がIOCからダメ出しされると、なんとMIKIKO氏の企画案を借用し、さらには電通や組織委を丸め込んでMIKIKO氏を「排除」していったというのだ。
その結果、MIKIKO氏はストレスによる突発性難聴まで患い、昨年11月9日に辞任届を提出。同月25日には組織委会長だった森氏と面談をおこなったというが、その席で森氏はこう言い放ったというのである。
「あなたが女性だったから、佐々木さんは相談できなかったのでは。事を荒立てるんじゃないだろうな」
つまり、佐々木氏は森氏や電通の高田氏を後ろ盾にすることでMIKIKO氏を蹴落として演出トップの立場に登り詰め、挙げ句、森氏はこのときも「あなたが女性だったから」などと差別丸出しで辞任に追い込んだことを正当化した上、黙らせようとしていたというのだ。