なぜ、看護師や介護、保育士はこのような「異常な低賃金構造」となっているのか。その背景にあるのは、「看護師は医師の補助的業務、介護や保育はもともと女性の家庭労働であり専門性や経験を評価しない」という考え方だ。つまり、「世話する存在」として女性が家庭において無償で担ってきたものだからこそ、それが労働として市場化しても低賃金であることが定着してしまっているのだ。
女性をケア要員とみなす性別役割分業と、それに基づく賃金格差という性差別。この是正が求められるのが当然であるだけではなく、このコロナ禍では看護師をはじめとして介護士、保育士の仕事が社会的にいかに重要かがあらためて浮き彫りになった。にもかかわらず、コロナ禍でも賃金は安いままで過重労働を強いられ、心が折れて退職するケースは相次いでいる。
こうしたなかで、田村智子議員は「ケア労働」の構造的差別を明らかにした上で「抜本的な賃金引き上げ」を訴え、「この現状を変える。政策的にできることです。総理、これやりましょうよ!」と呼びかけたのだ。
しかし、菅首相はこの呼びかけにも立ち上がろうとはせず、田村憲久厚労相が代わりに答弁する始末。田村智子議員が再び答弁を求め、菅首相はようやく答弁席に立ったが、その答弁はこんなものだった。
「介護についても、保育についても、それぞれ賃金の引き上げをおこなってきていることは事実ではないでしょうか」
「いまも非常に厳しい状況のなかで働くそうしたみなさんに感謝と敬意を表しますとともに、引きつづき現場で働いているみなさんの気持ちに寄り添いながら、ここはしっかり対応させていただきたい」
雀の涙程度の賃金引き上げでは構造的な問題は解決しないというのに、「感謝と敬意」でお茶を濁す。だが、これこそが菅政権の態度なのだ。
実際、看護師の人手不足に直面した政府が打ち出したのは、「派遣の規制緩和」だった。厚労省は2月、介護施設や障がい者施設へ看護師を日雇いで派遣できるよう、原則禁止とされてきた30日以内の日雇い派遣を認める方向で検討をはじめたのだ。