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福島県沖地震でまた朝鮮人差別デマが 差別批判や通報の動きに「ネタ」「パロディ」と反論する差別加担の動きも

 路上やネットに響き渡るヘイトスピーチ、本屋に山積みにされる嫌韓本、毎週のように週刊誌を飾る嫌韓特集……。これらの主張をひとつひとつ見てみると、そこにあるのはもはや歴史認識や主義主張の問題ではないことがよくわかる。捏造と妄想によって韓国・朝鮮人に対する憎悪、恐怖が煽られ、グロテスクな差別感情が一気に噴き出しているだけだ。

 この風景を見て想起させられるのが100年近く前の9月1日のできごとだ。1923年9月1日午前11時58分。マグニチュード7.9、震度7の巨大地震、関東大震災に乗じて、日本でもジェノサイド「朝鮮人虐殺」が起きたのである。

 倒壊・焼失家屋約29万3000軒、死者・行方不明者10万5000人以上に及ぶ壊滅的被害が広がる中、始まりは、人々の間で「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れている」「放火している」という不穏な噂が駆け巡ったことだった。

 この噂は何の根拠もないデマだったが、瞬く間に広がりを見せる。そして噂を信じた日本人は自警団を組織して、朝鮮人たちを襲い、次々と虐殺していったのだ。民間人だけではなく、警察、軍もそれに加わり、当時の警察が立件しただけで233人、実際は少なく見積もっても1000人以上の朝鮮人・中国人が虐殺された。

 ところが、ここにきて“嫌韓ブーム”にのってネトウヨ、保守派の間で、こんなストーリーが出まわり始めている。
「当時、実際に朝鮮人の暴動があったのは間違いがない。その暴動を鎮圧する過程で虐殺にエスカレートした」
「共産主義の国際団体のコミンテルンが日本で革命を起こすために、朝鮮人に暴動を煽った」

 日本人だけが悪いわけではない、虐殺には正当な理由があったという謀略論である。さらには、虐殺そのものを否定する『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!』(加藤康男/ワック)なる嫌韓本まで登場した。

 歴史修正主義者やレイシストたちが侵略戦争の次に、このジェノサイドまでをなかったとことにしようと企図しているわけだが、一方で、こうした状況に危機感を抱いて一冊の本が出版され、話題になっている。『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(加藤直樹/ころから)だ。

 この本の中心をなしているのは、虐殺事件の解説や歴史的分析ではない。著者は読者に「現実」を感じてもらうため、ひたすら当時の証言や記録を集め、事細かにそれを紹介していく。しかも、それは、公文書や軍の資料、戦後の検証記録はもちろん、被害者の朝鮮人、目撃した一般住民、さらには作家の芥川龍之介や国学者である折口信夫の証言まで、多岐にわたったものだ。

 そうした資料からは、無抵抗な朝鮮人たちが虐殺されていった様子が想像以上に生々しく浮かびあがってくる。たとえば、当時、文芸評論家・中島健蔵が神楽坂で目撃した虐殺はこのようなものだ。
「(震災翌日の9月2日、群衆でごった返す神楽坂警察署前で)突然、トビ口を持った男が、トビ口を高く振りあげるや否や、力まかせに、つかまった二人のうち、一歩おくれていた方の男の頭めがけて振りおろしかけた。わたくしは、あっと呼吸をのんだ。ゴツンとにぶい音がして、なぐられた男は、よろよろと倒れかかった。ミネ打ちどころか、まともに刃先を頭にふりおろしたのである。

 ズブリと刃先が突きささったようで、わたくしは(中略)目をつぶってしまった。

 ふしぎなことに、その兇悪な犯行に対して、だれもとめようとしないのだ。そして、まともにトビ口を受けたその男たちを、(中略)警察の門内に押し入れると、大ぜいの人間がますます狂乱状態になって、ぐったりした男をなぐる、ける、大あばれをしながら警察の玄関に投げ入れた。」(『昭和時代』)

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