本庶教授は具体例も示した。すでに国内で開発されている自動PCR検査システムを搭載したトレーラーならば、12時間で2500件の検査が可能。これを1000台用意すれば1日250万件の検査が可能だ。トレーラーは1台1億円だというから、「GoTo」追加予算の約11分の1である1000億円を投入すれば実行できるのである。
こうした検査拡充をおこなえば無症状感染者も広く捕捉できるようになるが、本庶教授は無症状の感染者の隔離により「宿泊先や食事を提供するホテル業界、飲食業界、生産者にもプラスになる。このほうが『GoTo』よりはるかによいと思う」と提唱した。
政府分科会の尾身茂会長も「感染させる人の約半数は無症状」と認めているように、いま必要なのは検査の徹底によって無症状を含む感染者をあぶり出し、隔離すること。これは本庶教授も「医学の教科書にも『感染者を見つけて隔離するのがもっとも良い』と書いてある」というように感染症対策の基本のキだ。だからこそ他国ではそうした対策がとられてきたのだが、この国ではなぜかそれが進まず、ネット上でもいまだに「検査を増やしても感染者は減らない」「検査しても意味がない」という意見が後をたたない。その主張の代表例が「アメリカは検査数が多いのに感染者は減っていないじゃないか」というものだ。
しかし、約3億件近くも検査をおこなってきたアメリカでも、じつは検査数が足りていないという指摘がある。〈1人の感染者を見つけるために、どの程度のPCR検査を実施したか〉を割り出したところ、〈中国が1808.7回と突出し、韓国66.6回、カナダ24.3回、イギリス22.2回、ドイツ21.0回、日本19.5回と続く〉一方、アメリカは12.7回だというのだ(東洋経済オンライン13日付)。感染者が多いアメリカでは、それでも検査が不足しているというわけだ。
一方、日本と同じくロックダウンはせず、「社会的距離の確保」による対策をおこない、日本とは違い検査に力を入れてきた韓国はどうか。
ワイドショーでもしきりに取り上げられたように、韓国も11月中旬から感染者が急増し、12月下旬には1日あたりの新規感染者数が1200人台にまで達した。そうしたなかで韓国は、症状の有無にかかわらず携帯番号を提出すれば誰でも匿名でPCR検査が受けられる臨時検査所を首都圏に計144カ所設置。その結果があらわれはじめたのか、1日あたりの新規感染者数は500人台を4日連続でキープ(15日時点)。油断ならない状況であることには変わりはないが、減少傾向だと分析されている。韓国の感染者が増えたときしかワイドショーは取り上げようとしないが、実際に検査体制の拡充が数字に出つつあるのである。
だが、こうした成果からこの国は学ぼうとはけっしてしない。初動からドライブスルー検査や「プール方式」導入などによる検査の拡充によって感染拡大を抑え込み、アメリカやドイツなどもそれを取り入れた。だが、日本ではドライブスルー検査が導入されるまでに時間がかかり、「プール方式」にいたっては世田谷区が行政検査として認めてほしいと再三要望も声をあげてきたにもかかわらず、厚労省はそれを無視。本日15日にようやく認めるという体たらく。