さらに、吉村知事はここにきて、 “8割おじさん”こと西浦博・京都大学教授からも、そのずさんな政策決定プロセスと、責任転嫁のやり口を指摘されている。
それは、吉村知事が昨年3月、松井一郎・大阪市長とともに唐突に打ち出した「大阪・兵庫間の往来自粛」をめぐってのものだ。
この自粛をめぐっては、大阪・神戸間で多くの地域が生活圏をほぼ一体化しており、2府県間だけの往来自粛に意味があるのかというツッコミが殺到。これに対して、吉村知事は〈国がこの書類を持って大阪府と兵庫県にわざわざ説明に来て提案された〉〈僕は無視できない〉などとツイートし、ドヤ顔である文書の画像を投稿した。
その文書こそ、当時、厚労省クラスター対策班のメンバーだった西浦教授が作成した資料だったのだが、そこには〈大阪府・兵庫県内外の不要不急な往来の自粛を呼びかける〉と書かれていた。つまり、「大阪府とそれ以外の地域の往来」と「兵庫県とそれ以外地域の往来」の自粛が提案されており、大阪府と兵庫県の間の往来の自粛が提案されたわけではなかったのだ。
当時、本サイトではいち早く吉村知事のこの「誤読」疑惑を取り上げたのだが、すると、吉村知事は本サイトの記事をリツイートし、〈このレベルのことは僕が19日最初に記者発表した段階で記者が聞いてるよ。国の提案は大阪兵庫間だけなく、その他の府内外も含む。要請期間も3週間の長期。緊急事態宣言もない中で、連休3日間に絞り込み、大阪兵庫間に絞り込みをかけた。国の試算値を重視し、対応は政治判断〉と反論。最初は威勢よく「国の提案だ」とツイートしていたのに、問題を指摘されたら「政治判断だ」と言い出したのである。
ところが、この吉村知事の打ち出した「大阪・兵庫間の往来自粛」について、資料の作成者である当の西浦教授が、明らかな間違いであると指摘した。昨年12月に発表した著書『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(中央公論新社/聞き手・川端裕人)のなかでこう語ったのだ。
〈これは僕らが思っていたものとはだいぶ違うもので、やっぱりこういうコミュニケーションは難しいということを強く感じさせられました。大阪市長と府知事は、大阪から全国に散らばるということではなく、県境をまたぐ移動をとにかく止めないといけないと受け止めて、中でも、兵庫県だけをターゲットにしました。阪神圏の往来が一番多いからなのかもしれませんが、その結果、兵庫県知事との間が険悪な雰囲気になったとニュースで見ました。大阪側からの事前調整がなかったということでしたが、兵庫県との往来だけをピンポイントに止めても流行制御に直結しないことは皆さんすぐに分かりますよね。発表の前に厚労省の連絡担当などに一言でも事前相談をもらっていれば……。〉
〈これはきちんとしたプロセスを経ており、そもそも審議官・局長や大臣を通した上で医療体制班が出しているものです。しかもフォーマルには通知ですらなく、メモとして渡したものなんですが、こちらには連絡なく公開されることとなりました。やっぱりコミュニケーションは難しかったということです。〉