だが、たしかに菅首相のこれまでのおこないを振り返れば、それもうなずくほかない。
その最たる例が、2014年に「ふるさと納税」をめぐって菅官房長官に異を唱えた総務省官僚だった平嶋彰英氏の人事だ。
ふるさと納税は総務相時代の菅氏の肝いり政策だが、2014年に官房長官だった菅氏は寄付控除の上限額の倍増などを指示。これに対し、当時、総務相の自治税務局長だった平嶋氏は「消費増税をお願いするなか、高所得者の節税対策になっているのはおかしい」と、菅官房長官に直接、問題点を説明したという。しかし、菅官房長官の態度は冷淡なものだった。
「『俺はふるさとに純粋に寄付している人をいっぱい知っている』と言われ、資料も渡したが、すぐ返されました。俺に文句言うな、という感じでした」(9月12日放送TBS『報道特集』より平嶋氏の証言)
だが、菅官房長官はただたんに訴えを無視しただけではなかった。平嶋氏が説明に行ったあとには、「総務省の上層部からも電話がかかってきて、これ以上は何も言わないように忠告されました」(「週刊朝日」オンライン版9月10日付、平嶋氏インタビューより)といい、さらに翌年の2015年の人事で、事務次官候補とも呼ばれた平嶋氏が、そのコースから外れる自治大学校長に異動となったのだ。
この人事の背景に何があったのか。じつは毎日新聞2017年6月3日付記事には、こうある。
〈2015年夏の総務省人事で、高市早苗総務相がある幹部の昇格を提案したが、菅義偉官房長官が「それだけは許さない」と拒否。高市氏は麻生太郎副総理から「内閣人事局はそういう所だ。閣僚に人事権はなくなったんだ」と諭され、断念に追い込まれた。この幹部は菅氏が主導したふるさと納税創設を巡る規制緩和に反対していた。〉
この「幹部」とは明らかに平嶋氏のことだが、つまり、菅官房長官は「楯突く者はこうなる」と見せしめに左遷したのである。
平嶋氏自身も「自分のことをきっかけに『官邸に何を言ってもダメだ』という雰囲気ができた」(前出『報道特集』)と語っているが、自分の肝いり政策の問題を指摘されただけで権力にものを言わせて人事で干しあげたこの一件は、他の官僚たちを萎縮させたことは間違いない。