「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産化は「一般財団法人産業遺産国民会議」なる団体が登録運動を担ってきたのだが、この団体には安倍前首相のお友だちの右派人脈がずらりと顔を揃えている。名誉会長の今井敬・経団連名誉会長は、安倍首相の側近中の側近だった今井尚哉・前首相秘書官の叔父、理事には日本会議福岡の元名誉顧問で前NHK経営委員長の石原進・JR九州特別顧問、フジテレビ取締役相談役の日枝久・前会長、さらには加計学園問題でも名前が挙がった元内閣参与の木曽功・千葉科学大学学長。しかも、徴用工問題で訴えを起こされている三菱重工業の飯島史郎顧問や、新日鐵住金の林田博顧問なども名前を連ねていた。
そして、専務理事として同団体を実質的に仕切っていたのが、この産業遺産情報センターのセンター長におさまり、「約70人の元島民へのインタビューで、虐待を受けたという証言はなかった」などと言い張っている加藤康子氏だ。
加藤康子氏は2015年12月から2019年7月まで内閣官房参与を務め、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の“陰の立役者”などと呼ばれているのだが、この康子氏と安倍前首相は“幼なじみ”で家族同然の深い関係にある。康子氏は故・加藤六月元農水相の長女なのだが、加藤氏は安倍前首相の父・晋太郎氏の安倍派四天王の筆頭で、康子氏の母は安倍前首相の母・洋子氏と“姉妹”のように親しかったというのは有名な話だ。また、康子氏は安倍前首相の側近で、厚労相として新型コロナ対応で大失敗しながら菅政権では安倍前首相の口利きにより官房長官に抜擢された加藤勝信氏の元婚約者でもある(勝信氏はその後康子氏の妹と結婚したため、義理の弟にあたる)。
「週刊新潮」(新潮社)2015年5月21日増大号に掲載された彼女のインタビューによると、自民党が野党に転落していたころ、安倍氏は「明治産業遺産」の世界遺産登録への熱意を語った康子氏にこう語ったという。
「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」
そして、安倍前首相は総裁の地位に返り咲いた3日後、彼女に電話をかけ、「産業遺産やるから」とその決意を語ったという。
つまり、そもそも「明治日本の産業革命遺産」は安倍前首相とそのお仲間が大日本帝国を美化する歴史修正主義を推し進めるためにはじまったプロジェクトであり、ユネスコという国際機関に「世界遺産」と認めさせることでその歴史を正当化し、戦前の負の部分を矮小化することが安倍前首相とお仲間の目的だった。そして今回、安倍前首相は総理を辞めたことで、満を持して堂々と歴史修正の情報発信に動き出したというわけだ。