大坂なおみTwitter
テニスの大坂なおみ選手が、全米オープンで2年ぶりに決勝に進出した。決勝は日本時間13日早朝におこなわれる予定でまだ勝敗はわからないが、いずれにしても、この間の大坂の戦いの軌跡は、まちがいなく歴史に残るものだ。
2回目の全米決勝進出だからではない。テニスプレーヤーとして大きな大会の試合に取り組みながら、同時にこれまでだれもやらなかったかたちで反差別のメッセージを発信し続けたからだ。
大坂選手は、1回戦、今年3月に自宅で寝ていたところを警察官に撃たれて死亡したアフリカ系女性ブレオナ・テイラーさんの名前が、白抜きでプリントされた黒いマスクをつけて登場。全米オープンの決勝戦までの7試合につけるため、黒人差別・ヘイトクライムによって命を奪われた犠牲者たちの名前を記した7枚のマスクを用意したことを明かし、「(犠牲者が多く)7枚のマスクでは数が足りないことを、とても悲しく思います。なんとか決勝まで勝ち残り、すべてのマスクを見せたい」と語っていた。
その後、大坂選手は宣言どおり勝ち続け、2回戦では昨年8月にコロラド州で警察官に首を絞められ死亡したイライジャ・マクレーンさん、3回戦には今年2月ジョージア州でジョギング中に白人男性に射殺されたアマード・アーベリーさん、4回戦にはBLM運動の始まるきっかけとなった2012年フロリダ州で自警団に射殺された高校生トレイボン・マーティンさん、準々決勝にはBLM運動拡大のきっかけとなった今年5月ミネソタ州で警察官に殺害されたジョージ・フロイドさん、準決勝では2016年にミネソタ州で職務質問中に射殺されたフィランド・キャスティルさんの名前が、それぞれプリントされたマスクをつけてコートに立ってきた。
そして大坂は13日、宣言通りに7枚目のマスクをつけて、決勝戦に臨む。それだけでもすごいことだが、しかし、それ以上にもっと評価したいことがある。それは大坂がここにいたるまでずっと悪辣な攻撃や冷ややかな反応にさらされていたにもかかわらず、まったく怯むことなく真っ向から戦い続けてきたことだ。
大坂の黒人差別への抗議行動が初めてクローズアップされたのは、今年5月25日にアメリカ・ミネソタ州ミネアポリスでアフリカ系男性ジョージ・フロイドさんが警察に殺害されたことをきっかけに全米に広がっていった黒人差別への抗議運動、Black Lives Matterに参加したことだった。
詳しくは既報を読んでいただきたいが(https://lite-ra.com/2020/06/post-5459.html)、ツイッターなどで繰り返し差別への抗議を熱心に発信し、路上の抗議運動にも参加。大坂選手のツイートには、彼女の知性とセンスを感じさせるユーモアを交えながらも、その言葉には強い怒りと切実さがハッキリと込められていた。
たとえば、恋人であるラッパー・YBNコーディの〈もはや沈黙は裏切りだ(there comes a time when silence is betryal)〉という投稿をリツイート(5月29日)するなど、大坂選手は差別そのものに怒っているのはもちろん、差別に対していまもまだ多くの人が沈黙していること、さらに多くの人が大坂選手に沈黙を強いてくることにも、強い違和感を吐露していた。
自身が差別への抗議を表明するとともに、繰り返し大坂選手が訴えていたのは、差別をなくすために、沈黙するのではなく、もっと多くの人に発言してほしい、動いてほしいということだった。