ビリー・アイリッシュは、この問題にどんな言い方で発言するか、敬意をもった言い方をしなくてはなどと考えていたが、もうそんなことはどうでもいいからとにかく話すと前置きし、こう切り出した。
〈あと1回でも白人の人が「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」と言うのを聞いたら、頭がおかしくなりそう。マジで黙れ! 誰も白人の命が大切じゃないなんて言ってない。誰も白人の生活がハードじゃないなんて言ってない。
「ALL LIVES MATTER」って言うことで、話をすり替えようとしているけど、あなたたち白人は必要に迫られていない、あなたたち白人は危険に晒されていない〉
「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」というと一見いいことを言っている言葉のようにも見えるが、実はこれは今回のデモでも掲げられている「BLACK LIVES MATTER(黒人の命が大切)」というスローガンを否定するためのアンチテーゼの言葉。黒人の命だけじゃなく、すべての人間の命が大切だと主張することで、黒人が受けてきた差別を矮小化しようとするレトリックなのだ。
たとえばトランプも、「BLACK LIVES MATTER(黒人の命が大切)」について、「分断を煽る差別的な言葉」などと批判したことがあると言えば、「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」がどういう人間がどういう目的で使っているかよくわかるだろう。今回の抗議デモに対しても、黒人差別に反対する声をかき消そうと、この「ALL LIVES MATTER」の言葉が投げつけられている。
ビリー・アイリッシュは、この「ALL LIVES MATTER」に対して、何回も「FUCK」という言葉もまじえながら、激しい調子で、でも丁寧に、その欺瞞を暴き出し反論していったのだ。
〈もし友だちが腕にケガをしていたら、「すべての腕が大切」だからって、まずすべての友だちにバンドエイドが渡されるまで待つの? 違うだろ。そのコを助けるだろ、だってそのコが痛がってて、そのコが助けを求めてて、そのコが血を流しているんだから!〉
〈もし誰かの家が火事で人が取り残されていたら、「すべての家が大切」だからって、まずそのブロックのすべての家に消防署を来させるの? 違うだろ。必要ないんだから!〉
なんの罪もない黒人が警察官に命を奪われたのに、「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」と叫ぶこと。それは、腕にケガをし血を流している友だちがいるのに「すべての腕が大切」だからと他のすべての友だちにバンドエイドを配ることや、火事で人が取り残されている家があるのに「すべての家が大切」だからとそのブロックの家すべてに消防車を呼ぶことと同じくらい、無意味で馬鹿げたことだと切って捨てた。