この吉村知事の反論は一見もっともらしく見えるが、インチキもいいところだ。吉村知事は受け入れ停止を「計画的措置」「重症者の救急断りは起きていない」などと主張しているが、現実には大阪で「救急断り」が多数発生している。
それは、消防庁が実施した4月下旬(4月20日〜26日)の「救急たらい回し」についての調査によって証明されている。この調査は、医療機関への受け入れ照会数が4回以上で、搬送先が30分以上決まらなかったケースを「救急搬送困難事案」とし、東京消防庁と政令市や県庁所在地などの消防本部を対象に行われたものだが、その結果、大阪市消防局の「たらい回し」は昨年同時期に比べ66件増加しており、東京消防局に次ぐ増加件数を記録していた。
受け入れ停止が吉村知事の言うとおり、本当に役割分担に基づいた計画的措置で、救急を断るものでないのなら、なぜこんなに「たらい回し」が増加しているのか。
だいたい、4月に大阪府内の3次救急医療を担う4病院が救急受け入れ停止をしたことを「医療崩壊」ととらえているのは大村知事だけではない。救急の専門家や当の病院関係者が当時、危機的状況であることを証言している。
時事通信(4月18日付)の報道によると、大阪の4病院が救急患者の受け入れを停止したり一部制限したりしたことについて、日本救急医学会の嶋津岳士代表理事が「通常の体制を維持できず、救急医療の崩壊は既に始まっている」と指摘していた。また同記事では、4月13日から重篤な患者の受け入れを停止した大阪急性期・総合医療センターの担当者が「苦渋の選択。コロナの重症者が増え続ける中、通常の救急体制を維持するのは難しい」と話していた。
いったいこれでどうして「救急受け入れ停止は計画的措置」という話になるのか。危機的状況に切羽詰まって救急受け入れを停止したのを、取り繕って「計画的」と言っているだけではないか。
実は、吉村知事は大村知事への反論さなかに、「大阪府「トリアージ病院」を近く本格運用」という記事をリツイート紹介しているのだが、これは救急搬送時の「たらい回し」を避けるためのもの。本当は吉村知事自身、大阪で「たらい回し」が増加、救急医療が危機に瀕していたことを自覚しているのではないか。
同じく大村知事が指摘した、「自宅待機」問題も同様だ。これも明らかな事実で、感染が拡大していた4月下旬、大阪ではPCR検査で陽性と判定されたにもかかわらず、「2百何十人」どころか、300人以上の自宅療養者がいたことが判明している。実際、この自宅待機患者については、吉村知事はぐうの音も出なかったのかひとことも反論していない。