しかも、アパホテルの客室には〈南京事件も慰安婦強制連行もなかった〉などと歴史修正を記述した元谷代表の著作が、まるで聖書のように設置されているのだ。
2017年1月、海外からの宿泊客がこの歴史修正本の存在に気づき、その内容をSNSに投稿したことから、当時国際的な問題に発展。当然ながら海外メディアは批判的に報じた。元谷代表はほかにも、歴史学者からトンデモ論として総スカンを食らっているコミンテルン・ユダヤ陰謀史観をこれでもかと展開している。
しかも当時アパはユダヤ陰謀論の一部こそ、ユダヤ系コミュニティからの抗議を受けて問題箇所を削除修正、釈明コメントを出したが、「南京事件はなかった」という歴史修正言辞については「言論の自由」だと強弁し、撤去しないと断言。あろうことか、海外からの宿泊客増加が予想される2020年東京五輪開催時でも、客室の歴史修正本を撤去しない考えを示していたのである。
言っておくが、海外とりわけ欧州では、ホロコースト否定論がナチスの戦争犯罪を肯定するものとして厳しく批判、制限されるほど、歴史修正の問題に敏感だ。もちろん日本軍による南京虐殺や従軍慰安婦問題についても例外ではない。
当然、五輪開催時にアパの本が目にとまれば、ホスト国である日本全体が歴史修正主義を容認していると受け取られかねない。
こんなホテルを、東京五輪組織委員会が公式に用意したとなったら、それこそ国際的に大問題だろう。
『スッキリ』では首相官邸や国会議事堂にほど近い永田町に昨年3月オープンした「アパホテルプライド国会議事堂前」と思しきロビーや客室を紹介。日本語だけでなく、英語・中国語・韓国語仕様もあるなど、外国人客にも対応していると宣伝していた。
しかし、本サイトは、昨年3月の「アパホテルプライド国会議事堂前」の開業時に潜入その様子をレポートしているが【 https://lite-ra.com/2019/03/post-4622.html】、そのときロビーや客室には、上述のような元谷代表の歴史修正主義思想を喧伝するものがあふれていた。
たとえば、ロビーのど真ん中にしつらえられた大きな台のうえに、例の元谷代表が「南京虐殺はなかった」という主張をした「藤誠志」名義の著書『理論近現代史学』シリーズが、ズラリと陳列。まるで宿泊客を出迎えるようかのように存在感を発揮していたこれらの本は、フロントに確認すると誰でも購入可能だった。
客室も同様だ。記者の泊まった「スタンダードルーム」にも、例の『理論近現代史学』シリーズがやはりあった。しかも引き出しの中などでなくサイドデスクのうえに、歴史修正本がむき出しで置かれていたのである。
しかも、よくみると、2017年からラインナップが更新。『理論近現代史学』は機関誌「Apple Town」の連載をまとめたものでシリーズ化されており、“南京事件や従軍慰安婦は捏造だ”とする内容が海外で問題視されたのはシリーズのII。だが、「アパホテルプライド国会議事堂前」の客室には、2017年の問題発覚以降に刊行されたIIIとIVが置いてあった。
この取材は2019年3月のオープン時のことなので、もしかしたら現在は撤去、あるいはさすがに五輪期間時のみ撤去する可能性もなくはないが、そういう問題ではないだろう。
このように歴史修正主義を喧伝してきた企業が、なんら反省もないまま、オリンピック・パラリンピックという世界中の人が参加する公共のイベントに関わるなど、許されないことだ。それこそ、五輪組織委や日本政府、ひいては日本社会全体がこうした歴史修正主義や差別排外主義を許容していることになる。
契約の経緯や歴史修正主義本の問題については、あらためて組織委やアパホテルに取材したいが、組織委が旭日旗持ち込みを認めた問題にしろ、このままでは東京五輪が日本の極右思想・歴史修正主義を世界に露呈する場となるのではないか。
(編集部)
最終更新:2020.03.26 01:14