さらに、参院選で河井氏の妻・案里氏が広島選挙区から出馬したのも、安倍首相にとって目障りだった自民党の重鎮・溝手顕正氏を蹴落とすための“刺客”としてだった。
というのも、広島選挙区選出の溝手氏は第一次政権時の2007年参院選で自民が大敗した際、安倍首相の責任に言及し、さらに下野時代には安倍氏を「過去の人」と発言した人物。昨年の参院選で、自民は表向き“2人区で2人擁立して票を上積みする”としていたが、実際には安倍首相が溝手落としのために子飼いである河井氏の妻を新人として立たせたのだ。
この事態にもっとも焦ったのは“ポスト安倍”の最有力候補である岸田文雄・自民党政調会長だ。広島は岸田氏の地元であり、岸田派の溝手氏は“岸田の腹心”とまで呼ばれる存在だった。そのため、参院選公示の約1カ月前には岸田氏はわざわざ安倍首相の私邸に赴いて溝手氏の地盤の切り崩しをしないでほしいと頼み込んだというが(「週刊文春」2019年8月29日号)、それでも安倍首相は案里氏の全面支援に回り、自ら案里氏の応援に駆けつけるだけではなく、秘書を広島の案里氏の選対にまで送り込んだのだった。
安倍首相は岸田氏を傀儡にして次期政権でも権力を維持しようとしているという見立てもあるが、その岸田氏の懇願も無視して、溝手氏への私怨を晴らすために力を注ぐ──。これは安倍首相の本質を端的にあらわすエピソードとも言えるが、ともかく、そうした安倍官邸が主導していた選挙で運動員買収が繰り広げられていたのである。しかも、河井氏が法務大臣に引き立てられたのも、これらの安倍首相のための働きが認められてのことだ。
ようするに、安倍首相が河井氏を法相に任命した「責任」は相当に重いものであり、秘書を選対に送り込んでいた安倍首相が公選法違反が疑われる選挙戦の実態に目をつぶっていた可能性すらあるのだ。
来週からはじまる通常国会では、再び安倍首相の任命責任に対する追及がおこなわれることになるだろうが、「桜を見る会」問題やカジノ汚職も含め、安倍政権の実態を徹底的にあぶり出さなくてはならない。
(編集部)
最終更新:2020.10.28 03:04