実名告発を潰すために“脅し”をかける。これが首相補佐官の仕事なのかと衝撃を覚えずにいられないが、じつは加計学園問題以外でも、和泉首相補佐官は安倍首相の意向をかたちにするため恫喝と圧力をかけていたことがわかっている。
それは、2016年に世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」をめぐってのこと。「明治日本の産業革命遺産」は幼少時から安倍首相と家族ぐるみの付き合いで、加藤勝信厚労相の義理の姉でもある加藤康子氏が中心になって推し進めていたプロジェクト。「週刊新潮」2015年5月21日増大号に掲載された康子氏のインタビューによると、自民党が野党に転落していたころ、安倍氏は康子氏に「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」と声をかけ、さらに、総裁の地位に返り咲いた3日後、「産業遺産やるから」と、電話をかけてきたという。
そして、安倍首相が血道を上げたこの「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録でも、安倍首相の名代として現場に介入したのが、和泉首相補佐官だった。じつは、「明治日本の産業革命遺産」を世界遺産の国内候補にするため、和泉首相補佐官が候補を決める文化審議会の委員から反対派の委員を排除するよう圧力をかけていたのだ。文化庁を外局とする文科省の事務方トップの事務次官を務めた前川氏は、こう証言している。
「和泉氏は文化庁の幹部に対し、文化審議会の委員から日本イコモス委員長(西村幸夫氏)を外せ、と言ってきた。日本イコモスは産業遺産の推進に消極的だった経緯があり、とにかくけしからんから外せ、と。結局、西村氏は委員から外れました」(「週刊朝日」朝日新聞出版/2017年6月23日号)
これらのケースをみればもうおわかりだろう。安倍首相がこれまでのルールや行政手続きをひっくり返して、お友だちに利権を優遇したいとき、安倍首相の代わりに現場に圧力をかけ、ごり押しをするのが和泉首相補佐官に役目だったのだ。
そして、安倍政権では、和泉氏のように安倍首相や菅官房長官の意向を汲んで動けば、官僚としての倫理観なんて欠片もなくても、官邸に重用され、出世できてしまう。いや、安倍首相のために平気で不正に手を染めることができる、そういう倫理観のない官僚こそが出世するというべきか。
そう考えると、今回の“京都不倫出張”という「公私混同」疑惑も、“安倍首相の右腕なら何をしても許される”という慢心の結果、起こるべくして起きたスキャンダルと言えるだろう。
森友・加計問題や「桜を見る会」ではっきりしたように、安倍首相が平然と私物化してきたことで、安倍首相の側近や親しい政治家たちもまた同じように振る舞い、最低限の倫理観さえ崩壊させてしまった。今回の「週刊文春」のスクープは、たんなる不倫スキャンダルではなく、安倍政権の腐敗を裏付けるものだと言っていいだろう。
(編集部)
最終更新:2019.12.11 09:54