しかも、今回の「即位礼正殿の儀」にはもう一人、安倍政権に抵抗するかのように招待された人物がいた。それは、サーロー節子さんだ。
サーロー節子さんは、広島県生まれで13歳のときに被爆。戦後、留学を経て結婚、カナダへ移住し、平和活動に積極的に参加し、ノーベル平和賞を受賞した国際NGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の「顔」としてこれまで長年にわたって核兵器の恐ろしさを伝える活動をつづけてきた。そして、2017年には被爆者としてはじめてノーベル賞の授賞式で、世界に向けてスピーチをおこなった人物だ。
しかし、ICANやサーロー節子さんが訴えてきた核兵器禁止条約に署名・批准しようとしない安倍首相は、ICANのノーベル平和賞受賞およびサーロー節子さんの授賞式スピーチをあからさまに無視。今年も吉野彰氏のノーベル化学賞受賞が発表されるやいなや電話をかけ「おめでとう。日本人として誇りに思う」と祝福し、ICANが受賞した年もカズオ・イシグロ氏の文学賞受賞にお祝いコメントを出していたが、ICANとサーロー節子さんには一切の祝福メッセージを出さなかったのだ。
その上、昨年12月にサーロー節子さんは来日したが、その際も安倍首相との面会はかなわなかった。これについて、サーロー節子さんは「自分と違う意見を持つ人に会って語り続けるのが本当のリーダーシップではないか」と会見で述べている。
他方、上皇后は2017年の自身の誕生日に際して公表された文書で、ICANのノーベル平和賞受賞を“印象に残る意義深いこと”として挙げ、「日本の被爆者の心が、決して戦いの連鎖を作る『報復』にではなく、常に将来の平和の希求へと向けられてきたことに、世界の目が注がれることを願っています」と綴っていた。
そして、ICANの顔であり、安倍首相が面会さえ応じようとしないサーロー節子さんが、今回、「即位礼正殿の儀」に招待された──。これもまた政府が招待するとは思えず、天皇の意向だった可能性が高いのだ。
沖縄と核廃絶。安倍首相が平和から逆行し、無視し、蔑ろにしつづけるふたつのテーマに対し、上皇・上皇后の思いを引き継ぐ意志を示した天皇。即位儀式によって天皇の権威づけが強化され、それを安倍政権が利用することは断じて容認できないが、今回、天皇が政権と対峙しても平和を願おうとする姿勢を見せたことは、一縷の希望といってもいいだろう。
(編集部)
最終更新:2019.10.22 10:54